最新記事

イギリス

ジョンソン英首相は「なぜ今」辞任するのか

Britain Finally Turned on Johnson

2022年7月11日(月)15時40分
アイマン・イスマイル(スレート誌記者)

――ジョンソンはすぐに首相でなくなるわけではない。

首相交代に関するルールは、イギリス人にとっても分かりにくい。有権者の直接投票で決まるのではなく、保守党内の投票によって決まるという仕組みが理解できないという人もいるだろう。

辞任を表明したからといって、すぐさまジョンソンがいなくなるわけではない。保守党の新党首が選ばれる10月までは首相職にとどまるという合意が結ばれているから、次期首相へのバトンタッチはそれからになる。

――先週は閣僚が次々と辞任を表明して驚いた。どうしてこんなことになったのか。

私もこれまで10年間イギリス政治を報じてきたが、あんな現象は見たことがない。これまでとはスケールが違った。

まず、サジド・ジャビド保健相が5日の夕方に突然辞任を表明した。これは6月に保守党の不信任案が否決されたことが関係していると思う。

こうなると党則により、今後1年間は不信任投票は行われない。このため、ジョンソンの退任を促すためには、閣僚が動かなければならないという意識が高まったのだろう。ジョンソン自身の側近が毅然とした態度で臨まなければならないと、ジャビドは判断したようだ。

そこからはドミノ倒しのようだった。ジャビドが5日の夕方6時頃に辞意を表明すると、10分後には首相の右腕であるリシ・スナーク財務相も辞意を表明した。そのインパクトは、ひょっとするとジャビドの辞任よりも大きかったかもしれない。

それでもジョンソンが首相職を続投する意向を示すと、6日は40人以上の政府高官がなだれを打ったように辞任を表明した。夜11時頃まで続いたと思う。

ジョンソンは断固として首相職にとどまるつもりだったようだが、多くの人はその理由をイギリスの政治家らしくない、アメリカの大統領の話のようだと受け止めた。

ジョンソンは、前回2019年の総選挙で1400万票を獲得して、国民の信任を得たと何度も言ったのだ。

多くの人は、「ちょっと待った。イギリスではリーダーを直接選ぶのではなく、党を通じて選ぶのに」と、違和感を覚えた。そしてジョンソンは、自分の党の支持を失っていた。

【関連記事】パーティー問題で逆風のジョンソン、後任候補はこの5人

――現在のイギリスにはどんな空気が漂っているのか。歓喜と疲労感が混在しているように見えるが。

げんなり、といったところだろう。2014年にスコットランドがイギリスからの独立を問う住民投票を実施して以来、イギリス政治は長期にわたり見通しのつかない状況が続いている。

2016年には国民投票でブレグジットが選択され、離脱派のリーダーの1人だったジョンソンの首相選出への道が開かれた。

こうした混乱は今後も続きそうだ。この夏は新首相の座をめぐる駆け引きが展開されて、休みなしの混乱が続くだろう。

国内の意見は割れるだろう。ジョンソン時代の終焉を心から喜ぶ人もいるが、根強い支持者、とりわけブレグジット賛成派は、閣僚たちがジョンソンを窮地に陥れたと思う可能性が高い。

既にジョンソン復帰の話をする有権者もいるほどだ。彼が数年後に首相の座に復帰しようとする可能性は否定できないだろう。

©2022 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中