ジョンソン英首相は「なぜ今」辞任するのか
Britain Finally Turned on Johnson
――ジョンソンはすぐに首相でなくなるわけではない。
首相交代に関するルールは、イギリス人にとっても分かりにくい。有権者の直接投票で決まるのではなく、保守党内の投票によって決まるという仕組みが理解できないという人もいるだろう。
辞任を表明したからといって、すぐさまジョンソンがいなくなるわけではない。保守党の新党首が選ばれる10月までは首相職にとどまるという合意が結ばれているから、次期首相へのバトンタッチはそれからになる。
――先週は閣僚が次々と辞任を表明して驚いた。どうしてこんなことになったのか。
私もこれまで10年間イギリス政治を報じてきたが、あんな現象は見たことがない。これまでとはスケールが違った。
まず、サジド・ジャビド保健相が5日の夕方に突然辞任を表明した。これは6月に保守党の不信任案が否決されたことが関係していると思う。
こうなると党則により、今後1年間は不信任投票は行われない。このため、ジョンソンの退任を促すためには、閣僚が動かなければならないという意識が高まったのだろう。ジョンソン自身の側近が毅然とした態度で臨まなければならないと、ジャビドは判断したようだ。
そこからはドミノ倒しのようだった。ジャビドが5日の夕方6時頃に辞意を表明すると、10分後には首相の右腕であるリシ・スナーク財務相も辞意を表明した。そのインパクトは、ひょっとするとジャビドの辞任よりも大きかったかもしれない。
それでもジョンソンが首相職を続投する意向を示すと、6日は40人以上の政府高官がなだれを打ったように辞任を表明した。夜11時頃まで続いたと思う。
ジョンソンは断固として首相職にとどまるつもりだったようだが、多くの人はその理由をイギリスの政治家らしくない、アメリカの大統領の話のようだと受け止めた。
ジョンソンは、前回2019年の総選挙で1400万票を獲得して、国民の信任を得たと何度も言ったのだ。
多くの人は、「ちょっと待った。イギリスではリーダーを直接選ぶのではなく、党を通じて選ぶのに」と、違和感を覚えた。そしてジョンソンは、自分の党の支持を失っていた。
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――現在のイギリスにはどんな空気が漂っているのか。歓喜と疲労感が混在しているように見えるが。
げんなり、といったところだろう。2014年にスコットランドがイギリスからの独立を問う住民投票を実施して以来、イギリス政治は長期にわたり見通しのつかない状況が続いている。
2016年には国民投票でブレグジットが選択され、離脱派のリーダーの1人だったジョンソンの首相選出への道が開かれた。
こうした混乱は今後も続きそうだ。この夏は新首相の座をめぐる駆け引きが展開されて、休みなしの混乱が続くだろう。
国内の意見は割れるだろう。ジョンソン時代の終焉を心から喜ぶ人もいるが、根強い支持者、とりわけブレグジット賛成派は、閣僚たちがジョンソンを窮地に陥れたと思う可能性が高い。
既にジョンソン復帰の話をする有権者もいるほどだ。彼が数年後に首相の座に復帰しようとする可能性は否定できないだろう。