最新記事

イギリス

ジョンソン英首相は「なぜ今」辞任するのか

Britain Finally Turned on Johnson

2022年7月11日(月)15時40分
アイマン・イスマイル(スレート誌記者)

220719p28_JSN_02v2.jpg

ジョンソン内閣では副大臣や政務官を含む40人以上が辞任を表明した LEON NEAL-POOL-REUTERS

さらに6月末に行われた2つの下院補欠選挙で、どちらも保守党の現有議席を失った。これに先立つ5月の統一地方選挙でも、保守党は大敗を喫した。このため党内では、ジョンソンの指導力や、有権者にアピールする能力を疑問視する声が膨れ上がった。

先週のドタバタの直接的な引き金になったのは、ジョンソンが党幹部に起用した人物が痴漢行為で辞任したことだ。ジョンソンが、この人物に関する懸念を事前に聞かされていたことが発覚して、ジョンソンの判断力だけでなく、支持者にも嘘をついているという疑念が広がり、党に見放されてしまった格好だ。

――しかしジョンソンはこれまで多くのスキャンダルを乗り越えてきた。今回は何が特別なのか。

確かにジョンソンはスキャンダルと無縁ではない。それどころか今までは、スキャンダルはジョンソンの一部のように考えられていた。「またボリスがやらかしている」とか「ボリスは永遠にあのままだな」という具合にね。

そうやって党がジョンソンを大目に見ていたのは、彼には幅広い有権者にアピールする能力があり、それが欠点を十分補っていると考えられていたからだ。

ところが最近の下院補欠選や統一地方選で、保守党が大敗を喫すると、「待てよ、ジョンソンは(大衆にアピールするどころか)党の足を引っ張っているのではないか」と考えるようになった。

だからパーティーゲートには大して目くじらを立てなかった議員たちも、ジョンソンに対する信頼を一気に失ったのだろう。

――それでも過去の不祥事と比べると、最新のものはマイナーに見える。

確かにそうだ。外国の人は特にそう言うだろう。実のところ、今回のことが決定打になった理由は、イギリス人にも明確には説明できない。小さな不信感が積み重なった結果なのではないか。

この半年間、不祥事ばかりがニュースになり、それがジョンソン政権の全てになってきた感がある。ジョンソンはそのイメージを振り払うことができず、それが彼の強みと、有権者の心に響くメッセージを発信する能力を少しずつ奪っていったように思う。

イギリス人の偽善に対する考え方も影響していると思う。イギリス人は偽善が大嫌いで、非常に大きな問題だと考える傾向がある。国民に押し付けたルールを自分は守らなくていいというジョンソンの考え方は、多くの人を極めて憤慨させている。

見えない要因も働いているだろう。突然、魔法が消えてしまったような感じだ。一度消えてしまうと、再び同じ魔法をかけるのは非常に難しくなる。

【関連記事】辞任表明の英ジョンソン首相、蠟人形は早くも「職安」に移動させられてしまう

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのソマリランド国家承認、アフリカ・アラブ

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中