ジョンソン英首相は「なぜ今」辞任するのか
Britain Finally Turned on Johnson
さらに6月末に行われた2つの下院補欠選挙で、どちらも保守党の現有議席を失った。これに先立つ5月の統一地方選挙でも、保守党は大敗を喫した。このため党内では、ジョンソンの指導力や、有権者にアピールする能力を疑問視する声が膨れ上がった。
先週のドタバタの直接的な引き金になったのは、ジョンソンが党幹部に起用した人物が痴漢行為で辞任したことだ。ジョンソンが、この人物に関する懸念を事前に聞かされていたことが発覚して、ジョンソンの判断力だけでなく、支持者にも嘘をついているという疑念が広がり、党に見放されてしまった格好だ。
――しかしジョンソンはこれまで多くのスキャンダルを乗り越えてきた。今回は何が特別なのか。
確かにジョンソンはスキャンダルと無縁ではない。それどころか今までは、スキャンダルはジョンソンの一部のように考えられていた。「またボリスがやらかしている」とか「ボリスは永遠にあのままだな」という具合にね。
そうやって党がジョンソンを大目に見ていたのは、彼には幅広い有権者にアピールする能力があり、それが欠点を十分補っていると考えられていたからだ。
ところが最近の下院補欠選や統一地方選で、保守党が大敗を喫すると、「待てよ、ジョンソンは(大衆にアピールするどころか)党の足を引っ張っているのではないか」と考えるようになった。
だからパーティーゲートには大して目くじらを立てなかった議員たちも、ジョンソンに対する信頼を一気に失ったのだろう。
――それでも過去の不祥事と比べると、最新のものはマイナーに見える。
確かにそうだ。外国の人は特にそう言うだろう。実のところ、今回のことが決定打になった理由は、イギリス人にも明確には説明できない。小さな不信感が積み重なった結果なのではないか。
この半年間、不祥事ばかりがニュースになり、それがジョンソン政権の全てになってきた感がある。ジョンソンはそのイメージを振り払うことができず、それが彼の強みと、有権者の心に響くメッセージを発信する能力を少しずつ奪っていったように思う。
イギリス人の偽善に対する考え方も影響していると思う。イギリス人は偽善が大嫌いで、非常に大きな問題だと考える傾向がある。国民に押し付けたルールを自分は守らなくていいというジョンソンの考え方は、多くの人を極めて憤慨させている。
見えない要因も働いているだろう。突然、魔法が消えてしまったような感じだ。一度消えてしまうと、再び同じ魔法をかけるのは非常に難しくなる。