最新記事

中国

金正恩すら赤面、中国で常態化する権力者への大げさなお世辞に国民もうんざり

2022年7月4日(月)12時17分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
習近平

返還25周年を前に習近平の映像を流す香港のテレビ(6月23日) ANTHONY KWAN/GETTY IMAGES

<3期目を前に習近平への手放しの賛辞が飛び交う中国。しかし、独裁色を強める中国を意味する「西朝鮮」というネットスラングが生まれるなど、国民の不満は止まらない>

今秋の中国共産党第20回党大会が近づき、党内では習近平(シー・チンピン)国家主席(党総書記)に対する手放しの賛辞が飛び交っている。5年に1度の党大会で習はこれまでの慣例を破り、3期目の党総書記に就任する予定だ。

中国では、権力者への大げさなお世辞が常態化している。一介の役人でも現場視察に訪れれば、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が赤面するほどの賛辞を贈られることも珍しくない。なかでも党・国家の最上層部から下級党員に至るまで、誰もが求められる習への賛辞の量は年々増え続けている。

今年に入り、億万長者の米投資家ジョージ・ソロスのような部外者の一部から、習の3期目就任が阻止されるかもしれないとの願望交じりの観測が流れた。だが、それも在中外国人や反体制派の噂話の域を出るものではない。

党大会では、新型コロナとの闘いが習体制を継続すべき理由の1つとして使われそうだ。上海市当局は約2カ月間のロックダウン(都市封鎖)を「完全に正しかった」と宣言。国営メディアは勝利と習の指導力を称賛し続けている。

それと対照的に、一般国民の間では厳格なゼロコロナ政策への不満が高まっている。問題はロックダウンだけではない。絶え間ない検査、旅行制限、そして中国が世界から孤立していくという感覚......。

この内向き志向に対する不安が「中流の上」、いわゆるアッパーミドル層の間で高まっている。上海では、教育カリキュラムから英語が削除された場合に備えて、教科書の「備蓄」を始めた家庭もある。富裕層の間では国外脱出がブームとなり、そのためのノウハウを意味する「潤学(ルンシュエ)」という新語が登場した。

ゼロコロナ政策への不満はネットで表明できるが、習体制への不満を口に出すわけにはいかない。そのため、さまざまな婉曲表現が生まれている。「西朝鮮」は独裁色を強める中国を意味するネットスラングだ。

習が2013年に開始した「反腐敗」運動は国民から強い支持を得たが、それも賄賂や職権乱用は復活し、言論弾圧が続くなかで色あせてきた。習への反感がさほど強くない国民も、習の指導的地位を守るための政治集会や演説には辟易しているはずだ。なかでも共産党員、特にある都市で入党して今は別の都市で働く党員にとっては面倒だ。

筆者の知る限り、ほとんどの党員が面倒な押し付けと感じているが、こうした行事は日常業務化している。一方でマルクス主義学習は出世の必須条件となり、若い学生は退屈な習思想を学ぶしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米製品への残りの関税撤廃 トランプ関税

ビジネス

世界長者番付、マスク氏首位に返り咲き 柳井氏30位

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中