最新記事

沖縄の論点

基地と経済、日本政府との交渉、安倍-菅ラインの歴史認識、コロナ禍......沖縄県政史を読み解く

WE NEED TO SERVE TWO ENDS

2022年6月23日(木)14時08分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
翁長雄志 安倍晋三

保革共闘の「オール沖縄」の翁長県知事は沖縄の歴史に深い理解を示さない安倍首相と対峙した(2016年、いずれも当時) Kimimasa Mayama-Pool-REUTERS

<「基地」と「経済」の間で揺れてきた沖縄の歴史。保革対立を繰り返す知事選の系譜から「選択の理由」が見えてくる――野添文彬・沖縄国際大学准教授に聞いた>

沖縄の本土復帰50年は「基地」と「経済」の間で揺れる歴史でもあった。

県知事選挙では財界が常に重要な役割を果たしてきた。加えて財界からは石油販売会社「りゅうせき」のトップだった稲嶺恵一、沖縄電力会長の仲井真弘多と2代続けて知事を輩出した。沖縄で経済と政治はどのような関係にあるのか。

沖縄県政史を研究する沖縄国際大学准教授の野添文彬にノンフィクションライターの石戸諭が話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――沖縄では、経済状況がいいと基地問題を争点に掲げる革新陣営が票を集め、景気が後退すると経済を優先課題とする保守陣営に支持が流れると言われている。

220628cover.jpgその傾向があったのは事実だ。大きな理由は沖縄と本土の決定的な格差だ。1人当たり県民所得は復帰後から現在まで、常に全国最低水準のまま。経済問題が大きな課題としてのしかかっている歴史がある。

沖縄初の保守派知事は1978年に当選した西銘順治だが、当選の背景にあったのは1975年の沖縄海洋博以後の不景気だ。西銘は自民党、それも田中角栄が率いていた田中派で衆院議員を務めていた経験がある。

保守派最大のアピールポイントは、日本政府とのパイプだ。西銘が県知事になれば振興予算をもっと取ってくることができるというものだった。政府から予算を取り、公共工事をすれば雇用が生まれ、開発も進む。県内企業も県民も所得が増えていく。

だからといって西銘は政府の言いなりになっていたわけではない。西銘はもちろん冗談ではあるが、「沖縄への高率補助が認められないなら日の丸を返上して沖縄は独立する」と切り出すなど、政府相手にかなりしたたかな交渉をしていた。沖縄戦以降の歴史的な経緯で結果的に日米安保の要となってしまった沖縄の置かれた立場を最大限活用していた。

最近で言えば、普天間基地の辺野古移設問題で翁長雄志、後継の玉城デニーが強硬に移設反対を主張し続けたのは、2010年代後半に観光業がかなり好調となり、沖縄経済が潤っていたという要因が大きかった。

大切なのは沖縄にとって基地と経済が、それぞれ切り離された問題ではなく、事実として常にリンクしている問題として捉える視点だ。ここに日本政府、国際情勢も絡んでくる。

magSR20220623servetwoends-2.jpg

基地問題を争点に政府と対立した革新系知事のイメージが強かった太田県知事 Susumu Toshiyuki-Reuters

――「基地か、経済か」という対立軸だけではリンクは見えてこないと。

大田昌秀県政の初期が良いケースだ。1990年に西銘と争い当選した大田は、基地問題を争点に政府と対立した革新系知事、というイメージが強いのだが、特に初期はこうしたイメージと異なる県政を展開していた。のちに県知事になる仲井真を副知事に迎え入れるなど、財界にもウイングを広げる体制を作っていた。

背景にあったのは、冷戦の終結だ。当時は冷戦が終わり、米軍基地が不要となり、沖縄に土地が返ってくることが、現実的にあり得ると考えられていた。実際に一部とはいえ90年代にも基地の返還はあり、返還された土地の再開発は進んだ。

基地の跡地をどのように活用すれば沖縄が潤うことになるのかを経済界も真剣に考えた時代にあって、革新系ではあるが大田は許容できる知事だった。

最終的に大田は保守派が擁立した稲嶺に県知事選で敗れるが、その一因はやはり90年代後半の不況にある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中