最新記事

沖縄の論点

基地と経済、日本政府との交渉、安倍-菅ラインの歴史認識、コロナ禍......沖縄県政史を読み解く

WE NEED TO SERVE TWO ENDS

2022年6月23日(木)14時08分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR20220623servetwoends-3.jpg

太田の後は、財界出身で保守陣営が擁立した稲嶺(写真)、仲井真が県知事を務めた Issei Kato-Reuters

――振興予算を組む日本政府の影響はどうか。

日本政府が振興予算を、沖縄に基地を受け入れさせる政治的テコにしてきたことは間違いない。特に「辺野古移設が唯一の解決策」とする安倍晋三・菅義偉の両政権は、辺野古移設反対を訴えて圧倒的な支持を集め2014年に誕生した翁長県政を脅威とみて、振興予算によって揺さぶりをかけた。

沖縄自民党の大物議員だった翁長が反旗を翻し、革新陣営と一体化し「オール沖縄」を結成したようにみえるが、実際に重要だったのは金秀グループを筆頭に有力県内企業が翁長の主張を支持し、「オール沖縄」を支えていたことだ。

もともと、首相になった橋本龍太郎、小渕恵三といった自民党保守本流の基本的なスタンスは沖縄の歴史に深い理解を示し、「すまないが米軍基地は置いてほしい。その代わり、振興予算を付けて沖縄の経済発展を支援する」というものだった。

だが、安倍-菅ラインにはこうした歴史認識がない。翁長と日本政府の交渉が常に空回りした大きな理由だ。

翁長体制になっても、辺野古移設受け入れを表明した仲井真時代から政府からの振興予算は大きく減らされず、3000億円超で推移している。問題は安倍-菅ラインで組んだ振興予算で潤う受益層と、そうではない層が分かれてしまったことだ。

沖縄県内の分断を促すような振興策を続けていたとみることもできる。観光が好調だった時期は耐えることができた企業も、新型コロナ流行以降は観光業が動かず、かなり苦境に立たされた。翁長-玉城体制を支えた金秀グループが「オール沖縄」から離脱した背景もここにある。

――復帰50年の今年は県知事選が控える。争点はやはり経済となるのか。

大田体制以降「基地も経済も」が沖縄の争点だったとみることができる。前回の県知事選における玉城知事誕生は、急逝した翁長の弔い合戦になったことが大きな理由だが、それだけでは説明できない。辺野古移設問題だけでなく、若い世代の雇用や子供の貧困の解決をより強調したことが大勝につながったとみている。

ところが新型コロナ禍もあり、この4年間で経済は大きく冷え込んだ。貧困対策は思ったように進んでおらず、企業の「オール沖縄」離れなど逆風は既に吹いている。報道各社の出口調査によれば、昨年の衆院選も若年層に限れば各選挙区で自民党系候補のほうが支持を集めていた。

沖縄県知事が常に向き合ってきた課題の1つに「自立経済」がある。沖縄に産業を生み出し、より強い経済を確立して本土と対等な関係に持っていく理想は果たされていない。これは保守派も抱える課題だ。保革ともに安倍-菅政権が作った「辺野古移設が唯一の解決策か否か」という論点にとらわれすぎている。

都市部の上空を米軍機が飛び交う普天間飛行場が危険だという認識は沖縄の両陣営は共に持っているはずだ。早期の危険性の除去に加え、普天間返還後の開発ビジョンを描く必要があると考えている。2020年代も「基地も経済も」が重要な論点となっていくだろう。

magSR20220623servetwoends-nozoe150.jpg野添文彬(沖縄国際大学法学部准教授)
滋賀県出身。一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。16年より現職で、専門は日本外交史、国際政治学。著書に『沖縄米軍基地全史』などがある。フォーサイトに「知事たちの沖縄復帰50年」を連載中

【関連記事】写真特集:50年前の沖縄が発する問い

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英HSBC、ネルソン暫定会長が正式に会長就任 異例

ワールド

ハマスが2日に引き渡した遺体、人質のものではない=

ワールド

トランプ氏が台湾保証実施法案に署名、台湾が謝意 中

ワールド

中国新大使館建設、英国が判断再延期 中国「信頼損な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中