最新記事

アメリカ

解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ

THE PRICE OF COMPLACENCY

2022年6月8日(水)16時25分
フレッド・グタール(本誌記者)

220614p40_CTA_04.jpg

ボストンのバーにも賑わいが戻る CHRISTIANA BOTIC FOR THE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES

「新型コロナウイルス感染症は、感染してからかなり時間が経過し、ほかの人に感染させやすい時期を過ぎた後に症状が重くなることが多い」と、欧州委員会共同研究センター(JRC)の進化ウイルス学者ピーター・マーコフは言う。「ある感染者が100人に感染させた後で症状が悪化して死亡したとしても、ウイルスにとっては何の問題もない」

昨年終盤以降は、オミクロン株がデルタ株に置き換わった。それには2つの理由があった。

第1の理由は、オミクロン株の感染力がデルタ株よりはるかに強かったことだ。デルタ株が肺に近い場所で増殖する場合が多いのに対し、オミクロン株は鼻から喉にとどまることが多く、ウイルスが鼻や口から吐き出されやすいのだ。この特徴によりデルタ株に比べて毒性が弱いことは幸いだったが、次に登場する変異株が同様の特徴を持つ保証はない。

第2の理由は、免疫による防御システムを逃れる能力がデルタ株より高いことだ。ウイルスは感染者の体内で自分のコピーを作る過程で次々と変異を起こし、環境に適応しようとする。今後、ウイルスが途方もない数の人の体内でコピーされ続ければ、ワクチンに耐性のある変異株が登場する可能性は高まる。

「スロットマシンに似ている」と、マーコフは言う。「ハンドルを引く回数が多ければ多いほど、リンゴが4つ並び、ウイルスにとって好ましく、人類にとっては好ましくない変異が起きる可能性が高くなる」

しかも最近、このウイルスが新しい変身の技術を持っていることが分かってきた。2つの異なるウイルスの遺伝物質が混合して「遺伝子再集合体」を生み出す場合があるのだ。

この春には、デルタ株とオミクロン株が組み合わさった「デルタクロン株」が確認されている。デルタクロン株の流行は限定的なものだったが、新型コロナウイルスが手ごわいスピンオフを生み出す手だてをもう1つ持っていることがこれにより明らかになった。

ワクチン効果は続くのか

ワクチンの防御効果がどれくらい持続するかは、ウイルスがどれくらい長く流行するかと密接に関係している。「今は少なくとも何らかの免疫を持っている人が多いが、新しい変異株や再集合体が出現したときにどうなるかは分からない」と、ミネソタ大学のオスターホルムは言う。

ウイルスの脅威がなくならない限り、警戒を緩めることは賢明でないと、バージニア大学ダーデン経営大学院のビビアン・リーフバーグ教授は言う。「雨がやんだから屋根はもう必要ないと考えるとすれば、愚かと言うほかない」

なぜコロナ対策にもっと予算を費やす必要があるのかというロムニー上院議員の問いに一言で答えるとすれば、新型コロナの流行が終わったとはまだ言い切れないから、ということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中