解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ
THE PRICE OF COMPLACENCY
このウイルスは、まだ世界中を大混乱に陥れる能力を持っている可能性がある。純粋に経済的に言えば、コロナ対策に100億ドルどころか1000億ドル費やしても安いものかもしれない。
パンデミックのコストを試算する方法はいろいろある。最も明確なのは死者数だ。新型コロナによる死者は分かっているだけで世界全体で620万人超、実際ははるかに多いだろう。3月に英医学誌ランセットに発表されたある研究では、20~21年の世界各国の「超過死亡」(平年と比較した死者の増加率)のデータを集め、コンピューターモデルを使って新型コロナによる実際の死者数を算出。死者は推計約1800万人に上ると結論した。
アメリカでの死者は100万人に達し、ランセットに掲載された研究によれば、実際はさらに31~44%多い見込みだという。
命に値段は付けられないとほとんどの人は考えるが、米政府のエコノミストは例外だ。彼らにとって「統計的生命価値(VSL)」、すなわち1人当たりの死亡損失額は約1000万ドル。従って、新型コロナの死者100万人分の米経済の生産性低下は、額にして10兆ドルの経済的損失に相当するわけだ。
連携に欠ける医療システム
損失額の驚異的な高さはパンデミックの今後について何を示しているか──その点を理解するカギの1つは、過去2年のコロナ対策での国別の実績を比較することだ。新型コロナによる死者数(人口10万人当たり)は、アメリカの294人に対し、ノルウェーは44人、イスラエルは116人、イギリスは246人だ。アメリカの死者数がせめてイギリス並みだったなら、総死者数は約15万9000人少なかっただろう。
パンデミックの経済的損失の評価方法はほかにもある。例えばバージニア大学のアントン・コリネック教授(経済学)は、アメリカのGDPはパンデミックが起きなかった場合に比べて2兆~3兆ドル減少することになると推定。一方、経営コンサルティング会社マッキンゼーの20年7月の報告書によれば、経済的損失は16兆ドルを超える可能性があるという。
金額はともかく、損失が大きいのは明らかだ。「景気下降による損失が数兆ドルに上ることは、完璧なモデルがなくても分かる」と、報告書発表当時にマッキンゼーの幹部だったバージニア大学のリーフバーグは言う。
これらの試算には、さまざまな無形コストは含まれていない。長期入院を余儀なくされた何百万もの人々やその家族の苦悩、コロナの長引く後遺症に苦しむ大勢の神経疾患や心臓や肺などの慢性病患者たち。失業、学校を欠席した子供たち、麻薬依存症の増加、精神疾患、親や子供や介護者の孤独やストレス......。