最新記事

アメリカ

解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ

THE PRICE OF COMPLACENCY

2022年6月8日(水)16時25分
フレッド・グタール(本誌記者)

このウイルスは、まだ世界中を大混乱に陥れる能力を持っている可能性がある。純粋に経済的に言えば、コロナ対策に100億ドルどころか1000億ドル費やしても安いものかもしれない。

パンデミックのコストを試算する方法はいろいろある。最も明確なのは死者数だ。新型コロナによる死者は分かっているだけで世界全体で620万人超、実際ははるかに多いだろう。3月に英医学誌ランセットに発表されたある研究では、20~21年の世界各国の「超過死亡」(平年と比較した死者の増加率)のデータを集め、コンピューターモデルを使って新型コロナによる実際の死者数を算出。死者は推計約1800万人に上ると結論した。

アメリカでの死者は100万人に達し、ランセットに掲載された研究によれば、実際はさらに31~44%多い見込みだという。

命に値段は付けられないとほとんどの人は考えるが、米政府のエコノミストは例外だ。彼らにとって「統計的生命価値(VSL)」、すなわち1人当たりの死亡損失額は約1000万ドル。従って、新型コロナの死者100万人分の米経済の生産性低下は、額にして10兆ドルの経済的損失に相当するわけだ。

連携に欠ける医療システム

損失額の驚異的な高さはパンデミックの今後について何を示しているか──その点を理解するカギの1つは、過去2年のコロナ対策での国別の実績を比較することだ。新型コロナによる死者数(人口10万人当たり)は、アメリカの294人に対し、ノルウェーは44人、イスラエルは116人、イギリスは246人だ。アメリカの死者数がせめてイギリス並みだったなら、総死者数は約15万9000人少なかっただろう。

パンデミックの経済的損失の評価方法はほかにもある。例えばバージニア大学のアントン・コリネック教授(経済学)は、アメリカのGDPはパンデミックが起きなかった場合に比べて2兆~3兆ドル減少することになると推定。一方、経営コンサルティング会社マッキンゼーの20年7月の報告書によれば、経済的損失は16兆ドルを超える可能性があるという。

金額はともかく、損失が大きいのは明らかだ。「景気下降による損失が数兆ドルに上ることは、完璧なモデルがなくても分かる」と、報告書発表当時にマッキンゼーの幹部だったバージニア大学のリーフバーグは言う。

これらの試算には、さまざまな無形コストは含まれていない。長期入院を余儀なくされた何百万もの人々やその家族の苦悩、コロナの長引く後遺症に苦しむ大勢の神経疾患や心臓や肺などの慢性病患者たち。失業、学校を欠席した子供たち、麻薬依存症の増加、精神疾患、親や子供や介護者の孤独やストレス......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランドが対人地雷生産へ、冷戦後初 対ロ防衛強化

ビジネス

アマゾンなど3社の株主、米移民政策の影響開示を要請

ビジネス

仏経済、26年上半期は0.3%成長へ 消費安定=I

ビジネス

アングル:フォードのEV撤退、政策転換と需要減の二
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中