「僕は友人を射殺した」──敵も味方もない戦場マリウポリの実態
“I SHOT MY FRIEND”
死体安置所となった部屋についてキリルはこう言った。
「7メートル四方の部屋は死体でいっぱいだった。天井に届くように死体が重なっていた」
キリルは両手で重なる様子を再現して、「分かる?」というようにこちらを見た。その後、攻撃は強まり、ついに病院のある地区はロシア軍の支配下に落ちた。ロシア軍は、一応のところ市民を巻き込んだ戦闘を避けるためウクライナ軍に24時間以内に街から出て行くように言った。
「でもロシア軍は市民がウクライナ軍と一緒に避難することは認めなかったんだ」
ここからが新たな困難の始まりだった。
「ウクライナ軍の撤退で一気に状況は厳しくなった。彼らが水や食べ物を市内から届ける役割を担っていたから」
さらには街の刑務所が破壊され囚人が脱走し一気に治安が悪化したという。未遂に終わったが、何者かがおそらく食料目当てで手榴弾で病院のドアをこじ開けようとする事態も起きた。キリルたちは自衛を始めた。あまり多くを語りたがらなかったが、キリル自身も人々を守るためにウクライナ軍がわずかに残した武器を取った。
ロシア軍は時に、「病院はウクライナ軍が占拠していたから攻撃した」という主張をする。偽情報の場合もあるだろうが、食料を手に入れるため、身を守るためウクライナ軍を必要とし、また武器を持つ人もいるのだ。
若い男性であるキリルは病院の人々を守る1人だった。そして、3月18日に「ドネツク人民共和国(DPR)」の兵士3人が病院にやって来るのに出くわした。
「ドネツク人民共和国」は、2014年以降、ウクライナ東部のドンバス地方でルガンスク人民共和国と共に国家を自称している。実際にはロシア政府の傀儡で、兵士はロシア人民兵や地元の限られた支持者と言われている。
「DPRの兵士に銃を向けた」
「DPRの兵士たちが病院に近づいて来たとき、僕と仲間は彼らにライフルを向けた。何が起きたか分からなかったから。仲間の1人が彼らの後ろに手榴弾を持って回り込んで『もし武器を置かなければ手榴弾を爆発させてここでみな死ぬ』と言ったんだ」
彼らの置いたライフルを見てキリルは気付いた。
「安全装置がまだ掛かっている状態だった。ただのポーズだったんだ。僕は彼らが危険な人たちでないと分かった」
その後、キリルは3人の兵士と会話を交わす。
「彼らは『ドネツクからマリウポリの郊外で部隊から離れて街中に行くように言われ、迷ってしまった』『何も要らないからシェルターにいさせてくれ』と言うんだ。彼らはロシア軍とウクライナ軍の両方の攻撃を怖がっていた。無理やり徴兵された人たちだった」