ミャンマー、スー・チー77歳の誕生日 軟禁状態で何を思うか
軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は最近スー・チー氏に関して「環境のよい場所に拘束されており完全な看護態勢のもとで健康状態もよい」と一部メディアに話した。しかしスー・チー氏の拘束場所については語らず、一切情報がない状態が続いているという。
こうしたことから逮捕当初は首都ネピドーにあるスー・チー氏の自宅に軟禁されていたとみられていたが、その後拘束場所が移された可能性も浮上している。
弁護団によると6月13日の公判でスー・チー氏は国民に対してお互いに助け合うことの大切さと平穏な生活への祈りを送ると述べたことが明らかになった。
これは軍政がスー・チー氏の動向に関しての情報を小出しにして国民の不安を和らげるとともにメッセージの内容が政治的でないことから明らかにすることを弁護団に許可したものとみられている。
かつては国民が花で誕生日を祝ったが......
クーデター前の民主政権時代は6月19日のスー・チー氏の誕生日には多くの国民が花を飾り、樹木を植え、献血するなど国を挙げてのお祝いだった。またネピドーの国会議事堂でも祝賀会が開かれたこともあった。
クーデター後の2021年の誕生日にはスー・チー氏の釈放を求めて支持者らが花を手にデモや集会を行い、多くのフラワーショップがスー・チー氏支持に共鳴して花の価格を値下げして支援したという。
しかし今年は治安当局の反軍政運動への弾圧が厳しくなっていることもあり、摘発を恐れて表立った誕生日を祝う動きはない。
そんななか、ヤンゴンにある環境が劣悪で刑務官による暴力が激しいことでも悪名高いインセイン刑務所では、服役中の民主化運動支持者や学生など12人の政治犯がスー・チー氏の誕生日を祝うと同時に軍政に抗議する活動を計画していた。しかし当局によって摘発されて6月14日に全員が独房に移送され、計画は中止に追い込まれたと地元メディアが伝えた。
これは軍政がスー・チー氏の誕生日に関連した民主派の動きを警戒する中での処分とみられ、予想以上に神経質になっていることの現れといえる。
スー・チー氏の動向や近況が伝わらない中、キン・マウン・ゾー氏らの弁護団は勝ち目のほとんどない裁判でスー・チー氏の弁護活動を必死に続けており、国際社会はさらに軍政批判を強めて圧力をかけることが期待されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など