最新記事

北朝鮮

ウクライナ情勢が金正恩を強気に転じさせた──「31発のミサイル実験」から見えること

Time to Worry Again

2022年6月29日(水)18時11分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
金正恩

金正恩(中央)の最近の行動からは西側との交渉再開への関心も垣間見える KCNAーREUTERS

<世界の関心がウクライナ情勢に向けられるなかで、北朝鮮の金正恩による動きに改めて注視すべき時が来ている>

世界の目がウクライナ情勢に集まるなか、北朝鮮は別のことに忙しい。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の下、北朝鮮は今年に入って31発の弾道ミサイル発射実験を行った。過去最多だった2019年の年25発を大幅に上回るペースだ。

6月5日だけでも、北朝鮮は35分間に8発の短距離弾道ミサイルを発射した。核実験の準備も進めている様子で、もし実行されれば4年前の米朝首脳会談を前に表明した「核実験中止」の約束を破ることになる。

しかも北朝鮮はコロナ禍の真っただ中にあるが、ワクチン接種や厳格なマスク着用などの対策を取っていない。感染拡大を防ぐ目的で2年前に国境を封鎖したため、食料不足も起きている。

こうしたなか6月8~10日に開かれた朝鮮労働党中央委員会拡大総会で、金は国家安全保障チームの刷新を行った。それが何を意味するのかは不明だが、金が攻撃的な姿勢とは裏腹に、国際社会との交渉再開への意欲をのぞかせたとも考えられる。

今年に入ってからの金の一連の行動は、西側諸国の動きに対抗するため、あるいは注目を集めるための手段とみる向きもある。だがそれより可能性が高いのは、金が「今までどおりの金」であり続けていること。すなわち、これまでと同じく攻撃的な姿勢を取りつつも援助を求め、それが得られなければさらに攻撃的な行動をエスカレートさせるとほのめかしているのではないか......。

ロシアと中国は北朝鮮の実験を容認

ウクライナ情勢が、金の行動に一定の影響を及ぼしている可能性もある。

アメリカがロシアとの対立を深め、中国と緊張関係にあり続けていることは、金を強気にさせている。5月にはロシアと中国が、ミサイル発射を受けて対北朝鮮制裁を強化する国連安保理の決議案に拒否権を発動した。アメリカやその同盟諸国の不安をあおることができるなら、ロシアと中国は金がミサイル発射実験を増やしても構わないという考えのようだ。

一連の発射実験はいずれも、北朝鮮がアメリカを攻撃する能力を一気に高めるものではない。北朝鮮は今年に入って6発の大陸間弾道ミサイルの発射実験を行っているがアメリカの基準からすれば気にするほどの回数ではない。だが韓国や日本、あるいは同地域にある米軍基地を攻撃できる短距離ミサイルや、より精度が高い新型モデルのミサイルの発射実験は、もっと多く実施されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中