ウクライナ情勢が金正恩を強気に転じさせた──「31発のミサイル実験」から見えること
Time to Worry Again
兵器開発の加速は被害妄想の兆候なのか
ジェームズ・マーティン不拡散研究センター東アジア不拡散プログラムのジェフリー・ルイス部長は、こうした新型兵器の開発ペースと精密さについては「やや警戒が必要」だと考えている。金がこれらを抑止力としてだけでなく、いつか実際に使う兵器と見なしている可能性を示しているからだ。
ルイスの同僚であるジョシュア・ポラックは、北朝鮮による兵器開発の加速は「紛れもない被害妄想」の兆候の恐れがあると指摘する。「『われわれは弱くない、だから手を出すな』と警告する」ためだという。
いずれにしても懸念されるのは、各方面で想定外の行動が必要になる可能性だ。6月5日に北朝鮮が8発のミサイル実験を行った翌朝、韓国はアメリカと合同でさらに短い10分間に8発の短距離弾道ミサイルを発射し、北朝鮮を牽制した(北朝鮮に対する一般の関心は低くなっているとしても、あらゆる脅威を監視している人々は北朝鮮の動きを慎重に見守り、迅速に対応している)。
北朝鮮がより攻撃的になっているのも、ある意味では想定外と言えるかもしれない。北朝鮮の一連の動きを受けて、韓国では5月に保守派が政権を握った。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は北朝鮮との緊張緩和を果たしたいと願っていたが、新大統領の尹錫悦(ユン・ソギョル)は協議の再開に一切関心がない。
北朝鮮が8発のミサイル発射実験を行った前日には、米韓が日本の沖縄近郊の海上で合同軍事演習を行っていた。北朝鮮のミサイル発射はこれより前に計画されていたはずだから、米韓に対抗した動きとは考えにくい。それでも金と側近は、この演習に注目したはずだ。
さらに韓国と日本は、6月29日に開かれるNATO首脳会議に招待されている。ヨーロッパとアジアにあるアメリカの同盟諸国が、安全保障の会議で一堂に会するのは初めてのこと。金の暴走を許容したロシアと中国にとっては、この動きも想定外の結果と言えるかもしれない。
そんななかで少なくとも1つ、前向きと受け取れる兆候がある。
金は党中央委員会拡大総会で国家安全保障チームを刷新し、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官を外相に任命した。彼女はこれまで西側諸国との交渉に数多く参加し、アメリカ情勢に精通していると言われる。崔の任命は、金が交渉再開に関心を持っている兆候かもしれない。