ウクライナ情勢が金正恩を強気に転じさせた──「31発のミサイル実験」から見えること
Time to Worry Again
金正恩(中央)の最近の行動からは西側との交渉再開への関心も垣間見える KCNAーREUTERS
<世界の関心がウクライナ情勢に向けられるなかで、北朝鮮の金正恩による動きに改めて注視すべき時が来ている>
世界の目がウクライナ情勢に集まるなか、北朝鮮は別のことに忙しい。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の下、北朝鮮は今年に入って31発の弾道ミサイル発射実験を行った。過去最多だった2019年の年25発を大幅に上回るペースだ。
6月5日だけでも、北朝鮮は35分間に8発の短距離弾道ミサイルを発射した。核実験の準備も進めている様子で、もし実行されれば4年前の米朝首脳会談を前に表明した「核実験中止」の約束を破ることになる。
しかも北朝鮮はコロナ禍の真っただ中にあるが、ワクチン接種や厳格なマスク着用などの対策を取っていない。感染拡大を防ぐ目的で2年前に国境を封鎖したため、食料不足も起きている。
こうしたなか6月8~10日に開かれた朝鮮労働党中央委員会拡大総会で、金は国家安全保障チームの刷新を行った。それが何を意味するのかは不明だが、金が攻撃的な姿勢とは裏腹に、国際社会との交渉再開への意欲をのぞかせたとも考えられる。
今年に入ってからの金の一連の行動は、西側諸国の動きに対抗するため、あるいは注目を集めるための手段とみる向きもある。だがそれより可能性が高いのは、金が「今までどおりの金」であり続けていること。すなわち、これまでと同じく攻撃的な姿勢を取りつつも援助を求め、それが得られなければさらに攻撃的な行動をエスカレートさせるとほのめかしているのではないか......。
ロシアと中国は北朝鮮の実験を容認
ウクライナ情勢が、金の行動に一定の影響を及ぼしている可能性もある。
アメリカがロシアとの対立を深め、中国と緊張関係にあり続けていることは、金を強気にさせている。5月にはロシアと中国が、ミサイル発射を受けて対北朝鮮制裁を強化する国連安保理の決議案に拒否権を発動した。アメリカやその同盟諸国の不安をあおることができるなら、ロシアと中国は金がミサイル発射実験を増やしても構わないという考えのようだ。
一連の発射実験はいずれも、北朝鮮がアメリカを攻撃する能力を一気に高めるものではない。北朝鮮は今年に入って6発の大陸間弾道ミサイルの発射実験を行っているがアメリカの基準からすれば気にするほどの回数ではない。だが韓国や日本、あるいは同地域にある米軍基地を攻撃できる短距離ミサイルや、より精度が高い新型モデルのミサイルの発射実験は、もっと多く実施されている。