最新記事

軍事

極超音速ミサイル「ツィルコン」はウクライナの戦況を一変させうる

How Russia's Zircon Hypersonic Missiles Could Turn the Tide of Ukraine War

2022年5月31日(火)18時22分
ジャック・ダットン

ロシアのバレンツ海から発射されたツィルコン(5月28日)  Russian Defence Ministry/REUTERS

<高速の変速飛行が可能で既存のミサイル防衛システムでは撃墜できないという最先端兵器「で、実用化も近いとされるが、一つだけ弱点がある>

ロシア国防省は5月28日、海軍が極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の発射実験を行ったことを発表した。同ミサイルはまだ開発段階にあるものの破壊力が高く、今後ウクライナでの戦闘に導入されれば、戦況を大きく変えることになる可能性もある。

「ツィルコン」は28日にバレンツ海のアドミラル・グリゴロビッチ級フリゲート艦から発射され、約1000キロメートル離れた白海の標的に命中したということだ。落下地点は、NATOに加盟申請しているフィンランドとスウェーデンにも近い。

同省は声明の中で、「発射実験は、新兵器試験の一環として行われた」ものだと説明した。「客観的データによれば、極超音速巡航ミサイル『ツィルコン』は、約1000キロメートル離れた海上の標的に命中し、指定の基準を満たした」

声明と共に公表された30秒間の動画には、ロシアが保有する最新のフリゲート艦からミサイルが発射され、煙をたなびかせながら空に消えていく様子が映っている。

極超音速ミサイルをめぐっては、中国、アメリカとロシアが開発競争を繰り広げている。同ミサイルは最高で音速の9倍、即ち「マッハ9」のスピードで飛べる。またウラジーミル・プーチン大統領自身の言葉によれば、射程距離は約1000キロメートルに達する。

迎撃は無理

ツィルコンはまだ開発中の兵器だが、今年後半には実戦配備が可能になるとみられている。実用化されれば、ロシア軍の巡洋艦やフリゲート艦、潜水艦への搭載が可能で、海上と地上の両方の標的に対して使用することができるため、ウクライナでの戦況を大きく変えることになる可能性が高い。

ロシアの複数の当局者は、ツィルコンは遠く離れた場所から標的を狙えるうえ、高速で変速飛行が可能なので、既存のどのミサイル防衛システムでも迎撃は不可能だとしている。

防衛産業アナリストのニコラス・ドラモンドは本誌に、ツィルコン実用化の準備が整えば、ロシアがそれを使おうとするのは「確実だろう」と述べた。ただし、ツィルコンは安くない。

「トマホーク巡航ミサイルが1発あたり500万ドル未満なのに対して、ツィルコンは推定で500万~2億1000万ドルと非常に高価なミサイルで、艦船、とりわけ空母の攻撃用に設計されている」と彼は言う。

「戦場に配備して、飛行場や弾薬・燃料の保管庫、物資の輸送拠点などの戦略目標を破壊するのにも使える。地上攻撃用の兵器として大きな威力を発揮すると予想されるが、ツィルコンを通常のロケット砲のように使用するのは不経済すぎる。ウクライナ軍の各部隊が、被害を避けるために上手く分散して活動していることを考えれば、なおさらだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中