「バイデンの率直さは新鮮。民主主義と独裁国の戦いは今後も続く」NATO元事務総長ラスムセン
WORLD WILL SPLIT IN TWO
――世界秩序の今後を決定付けるもう1つの重要な地域はアジア太平洋だ。中国と台湾が緊張関係にあるだけでなく、アメリカの同盟国である日本と韓国は中国ともロシアとも緊張関係にあり、以前にも増して両国への反発を強めつつある。ウクライナの事態は、この地域にどのような影響を及ぼすだろうか。
ウクライナの戦争は、多くの点でアジア太平洋地域の地政学的状況に影響を与えるだろう。そもそも中国は、ロシアによるウクライナ侵攻を快く思っていなかった。8年前のロシアによるクリミア併合も、公式に認めてはいない。
今回のウクライナ侵攻の直前には、中国の外相がミュンヘン安全保障会議での演説で、全ての国の主権と領土保全を尊重するのが中国の外交方針であり、それは「ウクライナにも当てはまる」と強調していた。ロシアとの関係を意識し、巧みにバランスを取ろうとした発言だ。
ウクライナ情勢は中台関係にも影響するだろう。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は今回の件で、独裁者からの圧力や攻撃に対して西側がどう反応するかを知り、軍事支援に関して西側諸国がこれまでになく結束する様子を目の当たりにした。
だから逆説的に聞こえるかもしれないが、ロシアによるウクライナ侵攻は、中国による台湾攻撃の決断を遅らせる効果があったと言える。
インドも東西のバランスを取るのに必死だ。インドはあらゆる地政学的問題を、中国との力関係として捉えている。だからこそインドは長年にわたりロシアから武器を買い、ロシアとの太いパイプを築いてきた。
だが今のインドは安全保障面でアメリカとの関係強化も望んでいる。その最も具体的な例が、クアッド(日米豪印戦略対話)への参加だろう。
私としては、インドは今も民主主義陣営に属していると考えている。だからインドには、ロシアから武器を購入するのをやめて、アメリカやその同盟国から武器を買ってほしい。
それが可能になる状況を、こちらも用意すべきだ。そうすればインドを少しずつ、こちらの陣営に引き込んでいくことができるだろう。
短期的に見れば、世界は今後2つの陣営に分かれると予想される。民主主義の陣営と、独裁国の陣営だ。
今年2月、北京冬季五輪の開幕に際して習近平とプーチンが発表した文書は、まさに独裁国陣営の戦闘宣言だった。今の世界秩序を変え、アメリカとその同盟国の出番を減らすと明確に述べていた。
だが今はアメリカのバイデン政権にも、民主主義陣営の結束を固める覚悟がある。経済規模で見れば、こちらの陣営は世界の60%を占めている。
この両陣営の分断は、この先も当分は続く。当然、両陣営間の経済的な交流も減る。現に多くの企業が、今までのサプライチェーンを見直している。
こういう状況だからこそ、14億の人口を抱えるインドを民主主義陣営にとどめることが重要であり、その努力を怠ってはいけない。