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「バイデンの率直さは新鮮。民主主義と独裁国の戦いは今後も続く」NATO元事務総長ラスムセン

WORLD WILL SPLIT IN TWO

2022年5月26日(木)12時10分
トム・オコナー(本誌外交担当)

――両陣営のどちらにも属さず、しかし欧米諸国と手広くビジネスを行って潤っている国もある。なかには絶対君主制の国も、超長期政権の続く国もある。そうした国と、どう付き合えばいいのか。あくまでも民主化を求めるのか、あるいは現状を容認する代わりに、独裁国陣営への加担を防ぐのが得策だろうか。

難しい問題だ。民主主義か独裁かは、白か黒かの単純な問題ではない。どちらとも言い難い国がたくさんある。そういう国は、まだ民主主義陣営の一員ではないが、それなりの取引ができる国として向き合うべきだと思う。

例えば中東の湾岸諸国は、私たちにとってエネルギーの供給源として重要だ。ヨーロッパがロシアとの経済関係を完全に断ち、ロシア産の原油や天然ガスの輸入をやめた場合、少なくとも短期的には、カタールやアラブ首長国連邦などからの輸入を増やさざるを得ない。民主主義の国ではないが、これらの国との協調は不可欠だろう。

個人的には、これらの国は実質的に独裁国家だと思う。しかし(経済的な利害を慎重に計算すれば)必ずしも独裁国陣営に加担するとは限らない。

――両陣営の間の緊張が高まり、経済面の結び付きも失われていくとして、その場合は国家間の危険な紛争が増えるのだろうか。それとも20世紀の東西冷戦時代のような状況に戻るのだろうか。将来的な世界戦争は避けられないのか、あるいは外交的な解決は可能なのか。

どちらの可能性もある。外交的な解決に向けた努力は最後まで続けられるべきだ。また現時点では、世界戦争の可能性は排除できると思っている。

しかしロシアのプーチン大統領が(ウクライナで)あそこまでやるのを、私たちは見てきた。そうである以上、最悪のシナリオも覚悟しておくべきだろう。

いずれにせよ、長い歴史の教訓を踏まえるなら、独裁者に対抗する最良の手段は断固たる姿勢と団結、そして揺るがぬ決意だ。

少なくとも短期的には、この世界が独裁者の陣営と民主主義の陣営に分断されるのは避けられない。

しかし民主主義の陣営は、経済力でも軍事力でも優れているし、世界中の人が必ず好きになるはずの素晴らしい理想を持っている。個人の自由や、将来の目標や人生を自分で決める権利だ。これらを望む気持ちは世界共通だろう。誰だってそれを望んでいる。

そして20世紀の冷戦時代と同様、それを提供できるのは私たち、つまり民主主義の陣営なのだ。

もしも民主主義の諸国が(独裁国の脅威に対して)共に立ち上がり、その団結を維持することができるなら、私たちの陣営は勝利できるだろう。そして無益な対立と破壊はやめて建設的な協力の道を選ぶのが得策だと、世界のあちこちにいる独裁者を説得できるだろう。

そして民主主義国家の連合には、そこに属する国家間の通商協定はもとより、経済面でも防衛面でも協力を深める努力が必要だ。

多国籍企業の多くは本気でサプライチェーンの見直しを行っている。ロシアのウクライナ侵攻を非難しない中国は、その代償を払うことになる。多くの企業が中国から撤退し、生産拠点を近隣の、より民主的なアジア諸国に移すだろう。メキシコや東ヨーロッパに移すケースもあるだろう。

だから短期的には、2つの陣営間での経済的な交流は減る。好ましくない状況だが、一時的にはやむを得ない。

独裁国の指導者たちが、私たちの民主主義陣営と関わることの利点に気付くまでは、経済面の関係も断つ必要がある。

ロシア市場からの撤退を決めた欧米企業に対して、今はロシア政府が資産の国有化などの脅しをかけている。だが、そんなことをすれば今後ロシアに投資する企業はなくなる。

将来的には、どんな企業も選択を迫られるだろう。民主主義の陣営と独裁者の陣営と、どちらに属するのかを。しょせん、ビジネスと政治は切っても切れない仲なのだ。

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