実はアマゾンも危ない? 巨大テック企業「無敵神話」を疑え
アマゾンの真実
著者によると、「プラットフォームの妄想」の懸念、希望、前提を体現している企業がアマゾンだという。株価は、2015年末から2020年末の5年間で5倍近くになった。
アマゾンがプラットフォームにおけるネットワーク効果の恩恵を受けているのは、マーケットプレイス事業だ。現在は、直接販売よりもサードパーティ製品の扱いが多いが、得られる収入は15パーセントの手数料のみ。会計的には事業全体の一部である。
しかし、アマゾンの利益の多くを占めているのが、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、つまりB2B(企業間取引)のクラウド・コンピューティング・インフラストラクチャー事業であることはよく知られている。
ジェフ・ベソスがAWSのプロジェクトに支援や資金提供したのは、かなり大胆だったと著者は評する。マイクロソフト、グーグル、IBM、アリババなどの企業はAWSが市場に投入されても何年も参入しようとしなかったからだ。
しかし、最近は、競合他社からの攻撃が価格圧力を生み出している。アマゾンはそんな中でも、先行者として有利な立場を維持している。
大企業や政府は、基本的なクラウド・インフラストラクチャーのアウトソーシングと、より付加価値が高いサービスを採用するようになってきた。それらは、株主の価値を向上させる可能性につながると著者は指摘する。
そんなアマゾンの顧客囲い込みの手段がアマゾンプライムだ。プライム会員は非会員の倍の金額を使うため、非常に優良な顧客となっている。プライム会員の特典のひとつが送料無料サービスであるが、配送料が増えて採算がとれるとは限らない。したがって、投資利益率が非常に低い可能性があるものの、実際のプライムの経済性は外部から評価するのは難しいという。
もうひとつのプライム特典がプライムビデオだが、この費用負担は莫大なものとなっている。アマゾンもオリジナル作品を制作しており、このサービスの立ち上げに成功したとみる人もいるが、著者は財務的な常識から考えると、その効果は疑わしいという。アマゾンがこのサービスを手放す必要性を感じていることから、顧客の囲い込みが弱いことを指摘する。
著者は、決して「GAFA+ネットフリックス」に代表される巨大IT企業に対する信頼を否定しているわけではない。むしろ「プラットフォームの妄想」のレンズを外すことで、巨大テック企業への過大な評価と憧れを持たず、投資家や一般の人が、それぞれの企業の真実の姿を知ることが本書の目的だ。
今は無敵と思われている巨人も、永遠に巨人であり続けるとは限らない。巨大企業の真の顔は、投資に興味がない人にとっても興味深い一冊である。
『巨大テック企業 無敵神話の嘘 GAFA+Netflixの勝者と敗者』
ジョナサン・A・ニー 著
小金輝彦 訳
CCCメディアハウス