ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?
LONG-BURIED WAR MEMORIES
若い世代が知るべき歴史
韓国ベトナム戦争退役軍人会は、ベトナムのゲリラとの武力衝突のやむを得ない結果だったと、故意の残虐行為の疑いを否定している。しかし、市民団体などは韓国軍が民間人に対して約80件の虐殺を行い、約9000人を殺害したと主張している。
韓国の活動家やジャーナリスト、研究者らは、戦争の公式な記憶に異議を唱える草の根運動「ごめんなさい、ベトナム」を展開(後の韓国ベトナム平和財団)。彼らの調査から、韓国兵による残虐行為は偶発的なものではなく、無防備な子供や女性、年配者を狙った組織的なものだったことが明らかになった。
08年にフーイェン省出身の作家チャン・ダイ・ニャットが、自伝的短編集『壊された人生』を出版した。ニャットの父親は名前も分からない韓国兵で、母親をレイプした人物。
ニャットのようにベトナム戦争中に韓国兵にレイプされたとされる数万人のベトナム人女性の子供は、ベトナム語で「ライダイハン」と呼ばれている。『壊された人生』の内容は国営メディアでも広く報道された。
しかし、ベトナムの一部の若者にとって、過去に韓国がベトナム戦争に参戦したことと、韓国兵を描く21世紀の韓国ドラマは別の話だ。年配の世代の不安は理解しているが、多くの若者は韓流ドラマがテレビで放映されることを制限する必要はないと考えている。
ハノイ在住の翻訳家のハンは『太陽の末裔』とそれをめぐる批判のおかげで、これまで意識していなかった歴史の遺産に気が付いた。
「ベトナムもアメリカやフランス、中国、日本と(歴史的な)問題を抱えてきた。放送禁止で解決できるのなら、韓国の1つのドラマだけでなく、そうした国のドラマを全て禁止するべきだ。兵士が登場するアメリカや日本の映画も禁止するというのだろうか」
ただし、韓国とのパートナーシップを深めることも重要だが、歴史的な不正義についてベトナムの若い世代が無知なままではいけない。許すということは、忘れるということではないのだ。
「韓国兵は加害者というだけではない」と、ツアーガイドのリは語る。「彼らも被害者かもしれない。負傷したかもしれない。彼らは自分の意思でここ(ベトナム)に来たわけではない。殺せと命令され、そうしなければ自分が上官に殺されただろう。そして、彼らも枯葉剤の被害を受けたかもしれない」
自ら歴史を調べたリは、ある数字を知った。ベトナム戦争で命を落とした韓国軍兵士は5000人以上。負傷者数は計り知れない。
©2022 The Diplomat