ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?
LONG-BURIED WAR MEMORIES
ベトナム戦争中、韓国はアメリカに次ぐ30万人規模の兵士を派遣した(1972年、南部の激戦地ニャチャン近郊) DAVID HUME KENNERLY/GETTY IMAGES
<ベトナム戦争中の韓国兵士の残虐行為を知らずに、若者は韓国ドラマの兵士に夢中。経済成長を優先し、歴史教育に関心のないベトナムと、歴史を掘り返されたくない韓国の「韓流ジレンマ」とは?>
ベトナム中部クアンガイ省出身のレ・ティ・タン・リは7年前から外国人観光客を相手に英語でツアーガイドをしている。地元周辺を案内すると、観光客はミーケー・ビーチの美しい砂浜と透き通った青い海に息をのむ。
今年3月下旬、リはソウルから来た年配の韓国人カップルを案内することになった。27歳のリは韓国ドラマの話ができると張り切っていたが、驚いたことに彼らが連れて行ってほしいと言ったのはクアンガイ省のビンホア村だった。
実はベトナム戦争中の1966年、この村で400人を超える住民が韓国軍兵士に虐殺される事件が起きていた。
それから数日間、リは事件についてインターネットで調べた。「私はここで生まれ育ったのに何も知らなかった。本当に情けない」友人たちにも何人か聞いてみたが、彼らも全く知らなかった。
リのように韓国のポップカルチャーにハマっている若者が、ベトナム戦争に韓国が関与したことを全くと言っていいほど知らないケースは多い。まして当時の韓国軍兵士による戦争犯罪についてはなおさらだ。
30人を超えるベトナムの大学生や若い社会人への取材から、彼らがベトナム戦争中の韓国人兵士による犯罪を知らないことが明らかになった。韓国兵によるレイプや殺害の舞台となった地で生まれ育ち、教育も受けた若者でさえ、この歴史の闇については不案内だった。
92年12月の韓国・ベトナム国交正常化から今年で30年。両国の外交関係は09年の「戦略的協力パートナーシップ」から「包括的戦略パートナーシップ」に格上げされる見込みだ。韓国のソフトパワーはベトナムの若者の心をつかんでいるが、高齢者世代は今でも戦時中に韓国兵が働いた残虐行為を忘れてはいない。
昨年7~9月、新型コロナウイルスの感染急拡大に伴い、南部ホーチミン(旧サイゴン)市は完全にロックダウン(都市封鎖)された。ベトナム軍の兵士たちも駆り出されて生活必需品の配給に協力。こうした兵士たちの姿をリ・ジョンヒョク大尉に重ねる声が多かった。
韓国ドラマ『愛の不時着』で韓国のトップスター、ヒョンビンが演じている北朝鮮のエリート将校だ。ドラマはベトナムで2020年にネット配信され、グーグルトレンドによれば、この年最もネット検索されたドラマのトップ10にランクインした。