ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?
LONG-BURIED WAR MEMORIES
韓国ドラマに出てくる兵士がベトナムで人気になるのはこれが初めてではない。16年には『太陽の末裔』が大ヒット。架空の国で平和維持活動に従事する韓国人兵士のロマンスを描いた作品だ。
当時、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領もこのドラマが若者の愛国教育に役立つだろうと称賛した。韓国での放映開始から約2カ月後には、ホーチミン市テレビ局(HTV)のチャンネル「HTV2」が放映権を取得、放映すると決定した。
「アメリカの傭兵」という記憶
この決定にベトナムのネット上では前例のない猛抗議が巻き起こった。ベトナムの多くの高齢者にとって、『太陽の末裔』で架空の国での平和維持活動に従事する韓国兵たちの英雄的な振る舞いは、朴槿恵の父親である故・朴正煕(パク・チョンヒ)大統領がベトナム戦争中にベトナム中央部に派遣した兵士たちの非人道的な振る舞いとは正反対だ。
ベトナム屈指の発行部数を誇る現地日刊紙トゥオイチェーの元記者でジャーナリストのチャン・クアン・ティは、SNSで『太陽の末裔』論争の口火を切った。16年3月にベトナムでの「アメリカの傭兵」たちによる残虐行為をフェイスブックで詳述し、現在の韓国兵が登場する韓流ドラマにベトナムの若者が熱狂する状況と対比したのだ。記事のシェア数は8万7000を超えた。
こうした論争もドラマのベトナムでの人気に影を落としてはいない。ファンはフェイスブック上でファンページやグループを作るだけでなく、セレブの間ではやったのをまねて、画像加工アプリを使って韓国軍の制服を着ている自分の画像もアップした。さらに18年にはリメークしたベトナム版も放映された(人気ではオリジナル版に及ばなかったが)。
だが、このドラマをきっかけに主要メディアでは、ベトナム戦争における韓国の関与が大きく論じられるようになった。それでもベトナム政府は、ベトナム戦争でアメリカに勝利したことを毎年大々的に祝福するのに、韓国の関与にはあまり触れないようにしてきた。
朝鮮戦争(1950~53年)の記憶も生々しい当時の韓国は、アメリカの同盟国であり、北朝鮮と同じように社会主義を掲げるベトナム民主共和国(北ベトナム)を敵と見なした。その一方で、ベトナム共和国(南ベトナム)とは友好関係にあり、57年にはゴ・ジン・ジェム大統領が韓国を訪問。67年に制定された南ベトナム憲法は、韓国憲法を下敷きにした。