最新記事

ベトナム

ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?

LONG-BURIED WAR MEMORIES

2022年5月18日(水)16時53分
トラビス・ビンセント

韓国ドラマに出てくる兵士がベトナムで人気になるのはこれが初めてではない。16年には『太陽の末裔』が大ヒット。架空の国で平和維持活動に従事する韓国人兵士のロマンスを描いた作品だ。

当時、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領もこのドラマが若者の愛国教育に役立つだろうと称賛した。韓国での放映開始から約2カ月後には、ホーチミン市テレビ局(HTV)のチャンネル「HTV2」が放映権を取得、放映すると決定した。

「アメリカの傭兵」という記憶

この決定にベトナムのネット上では前例のない猛抗議が巻き起こった。ベトナムの多くの高齢者にとって、『太陽の末裔』で架空の国での平和維持活動に従事する韓国兵たちの英雄的な振る舞いは、朴槿恵の父親である故・朴正煕(パク・チョンヒ)大統領がベトナム戦争中にベトナム中央部に派遣した兵士たちの非人道的な振る舞いとは正反対だ。

ベトナム屈指の発行部数を誇る現地日刊紙トゥオイチェーの元記者でジャーナリストのチャン・クアン・ティは、SNSで『太陽の末裔』論争の口火を切った。16年3月にベトナムでの「アメリカの傭兵」たちによる残虐行為をフェイスブックで詳述し、現在の韓国兵が登場する韓流ドラマにベトナムの若者が熱狂する状況と対比したのだ。記事のシェア数は8万7000を超えた。

こうした論争もドラマのベトナムでの人気に影を落としてはいない。ファンはフェイスブック上でファンページやグループを作るだけでなく、セレブの間ではやったのをまねて、画像加工アプリを使って韓国軍の制服を着ている自分の画像もアップした。さらに18年にはリメークしたベトナム版も放映された(人気ではオリジナル版に及ばなかったが)。

だが、このドラマをきっかけに主要メディアでは、ベトナム戦争における韓国の関与が大きく論じられるようになった。それでもベトナム政府は、ベトナム戦争でアメリカに勝利したことを毎年大々的に祝福するのに、韓国の関与にはあまり触れないようにしてきた。

朝鮮戦争(1950~53年)の記憶も生々しい当時の韓国は、アメリカの同盟国であり、北朝鮮と同じように社会主義を掲げるベトナム民主共和国(北ベトナム)を敵と見なした。その一方で、ベトナム共和国(南ベトナム)とは友好関係にあり、57年にはゴ・ジン・ジェム大統領が韓国を訪問。67年に制定された南ベトナム憲法は、韓国憲法を下敷きにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍がホルムズ海峡封鎖へ、イランは交渉に戻る見通し

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中