ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?
LONG-BURIED WAR MEMORIES
朴正煕は約30万人の韓国兵をベトナムに送り込んだ。ベトナム戦争に関与した国のうち、アメリカに次ぐ第2位の規模だ。その見返りとして、朴は計80億ドル相当の経済援助や技術移転をアメリカから引き出した。それは韓国が貧困から脱却し、「漢江の奇跡」と呼ばれる急激な経済成長を実現する助けになった。
しかしベトナムから見れば、あたかもアメリカの傭兵のように戦争に首を突っ込んできた韓国のことは、皮肉な形で記憶されている。ベトナム語で「ザインパク」とは「朴の戦士たち」という意味だが、現代では「副業をする」という意味の口語表現になっている。
結局、北ベトナムが勝利して、社会主義の国となったベトナムだが、86年にドイモイ(刷新)政策を掲げて社会経済の改革に着手すると、外交関係も拡大し始めた。韓国もソ連が崩壊すると、90年代は社会主義の国々に対する姿勢を軟化させた。こうして92年にベトナムと韓国の国交正常化が実現すると、あらゆる領域で2国間関係が拡大していった。
アジア全般、特にベトナムでは、韓国のソフトパワーの中核を成すのはその文化だ。98年にドラマ『星に願いを』が大ヒットすると、ベトナムで放送されるドラマの40%を韓国ドラマが占めるようになった。
歴史問題を無視してきたツケ
2001年には両国政府の間で「21世紀の包括的パートナーシップ」が結ばれ、09年にはそれが「戦略的協力パートナーシップ」へと強化された。現在、韓国はベトナム最大の貿易相手国の1つだ。また、この10年ほど、ベトナムは韓国の対外投資・援助の最大の受益国であり、韓国が東南アジア諸国との関係強化を図る「新南方政策」の要でもある。
ベトナムも昨年、小学校から教える主要外国語の1つに韓国語を加えた。韓国でも近年、ベトナム語学習者が増えている。
だが、歴史問題を無視してきたことは、こうした急接近の基盤を不安定なものにしている。ベトナムの若者は自国の歴史について十分な教育を受けていないし、歴史そのものへの関心も衰えていると、主要メディアは報じている。『太陽の末裔』をめぐる騒動は、教科書もメディアも重要な歴史問題を省いてきたことに大衆が気付くきっかけになった。
首都ハノイに住む63歳の元陸軍士官ニャンは韓国のドラマや音楽に夢中の子供たちに、かつて韓国兵がベトナムでしたことを話したという。