最新記事

ベトナム

ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?

LONG-BURIED WAR MEMORIES

2022年5月18日(水)16時53分
トラビス・ビンセント

朴正煕は約30万人の韓国兵をベトナムに送り込んだ。ベトナム戦争に関与した国のうち、アメリカに次ぐ第2位の規模だ。その見返りとして、朴は計80億ドル相当の経済援助や技術移転をアメリカから引き出した。それは韓国が貧困から脱却し、「漢江の奇跡」と呼ばれる急激な経済成長を実現する助けになった。

しかしベトナムから見れば、あたかもアメリカの傭兵のように戦争に首を突っ込んできた韓国のことは、皮肉な形で記憶されている。ベトナム語で「ザインパク」とは「朴の戦士たち」という意味だが、現代では「副業をする」という意味の口語表現になっている。

結局、北ベトナムが勝利して、社会主義の国となったベトナムだが、86年にドイモイ(刷新)政策を掲げて社会経済の改革に着手すると、外交関係も拡大し始めた。韓国もソ連が崩壊すると、90年代は社会主義の国々に対する姿勢を軟化させた。こうして92年にベトナムと韓国の国交正常化が実現すると、あらゆる領域で2国間関係が拡大していった。

220524p46_BTN_03.jpg

12年にハノイで開催された国交樹立20周年記念コンサートには、人気アイドルグループKARAなど韓国のアーティストも多数出演 NGUYEN HUY KHAMーREUTERS

アジア全般、特にベトナムでは、韓国のソフトパワーの中核を成すのはその文化だ。98年にドラマ『星に願いを』が大ヒットすると、ベトナムで放送されるドラマの40%を韓国ドラマが占めるようになった。

歴史問題を無視してきたツケ

2001年には両国政府の間で「21世紀の包括的パートナーシップ」が結ばれ、09年にはそれが「戦略的協力パートナーシップ」へと強化された。現在、韓国はベトナム最大の貿易相手国の1つだ。また、この10年ほど、ベトナムは韓国の対外投資・援助の最大の受益国であり、韓国が東南アジア諸国との関係強化を図る「新南方政策」の要でもある。

ベトナムも昨年、小学校から教える主要外国語の1つに韓国語を加えた。韓国でも近年、ベトナム語学習者が増えている。

だが、歴史問題を無視してきたことは、こうした急接近の基盤を不安定なものにしている。ベトナムの若者は自国の歴史について十分な教育を受けていないし、歴史そのものへの関心も衰えていると、主要メディアは報じている。『太陽の末裔』をめぐる騒動は、教科書もメディアも重要な歴史問題を省いてきたことに大衆が気付くきっかけになった。

首都ハノイに住む63歳の元陸軍士官ニャンは韓国のドラマや音楽に夢中の子供たちに、かつて韓国兵がベトナムでしたことを話したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中