最新記事

ウクライナ情勢

「米欧が一線を超えた」と懸念する声も ロシア弱体化を狙う危険な賭け

A DANGEROUS ESCALATION

2022年5月13日(金)17時05分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

magSR20220513dangerousescalation-3.jpg

西側と習近平の中国・プーチンのロシアの冷戦に発展する可能性が高まった CARLOS GARCIA RAWLINS-REUTERS

だがプーチンは過去にロシアの支配下から脱した独立国家ウクライナの存在は容認できないと明言し、昨年7月に発表した論文では、ウクライナの完全独立は「われわれに対する大量破壊兵器の使用に匹敵するような結果」を招くと警告している。

ソ連との核軍縮交渉を担当した元米外交官のロバート・ガルーチは、ロシアがいま使用をちらつかせているのは新型の戦術核で、「ウクライナ国内やその周辺でロシア軍との紛争に直接的に関与するなら、決して侮れない」脅威だと指摘する。

アメリカがウクライナに直接的に関与すれば、かつての冷戦以上に不安定で危険な新冷戦が長期にわたって続くことになると、ビービは言う。

「ゲームのルールがない状態で、ウクライナとヨーロッパを分断する米ロ対立が続くことになる。それは新冷戦というより、ヨーロッパの古傷が膿(う)んでただれるような状況だ」

かつてなく明確にロシアと対峙する姿勢を打ち出した西側とNATO。エリザベス・トラス英外相が4月末の演説で示唆したように、NATOがヨーロッパにとどまらず、中央アジア、中東、インド太平洋地域にまで防衛網を広げれば、緊張はさらに高まる。

「NATOはグローバルな脅威に立ち向かう準備をしなければならない」と、トラスは述べた。「(自由で開かれた)インド太平洋地域を守るため日本、オーストラリアなどの同盟国と協力し、この地域への脅威を未然に防ぐべきだ。さらに台湾のような民主主義の地域が自衛できるよう支援する必要がある」

だとすれば、西側がロシアだけでなく、中国も加えた強権主義的な陣営と対峙する新冷戦が延々と続くことになる。

この冷戦は容易に「熱い戦争」になり得ると、ビービは警告する。アメリカとその同盟国は「豊かな資源を持つロシアと今や技術・経済大国となった中国」という最強タッグと対峙することになるからだ。

From Foreign Policy Magazine

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中