最新記事

ロシア

ロシア携帯通信網は破綻の恐れ ノキアなど撤退で「死にゆく技術の博物館」に

2022年5月6日(金)15時03分
青葉やまと

ロシアのモバイル通信網は、「死にゆく技術の博物館」に...... REUTERS/Lehtikuva/Marja Airio (FINLAND)

<ネットワーク機器メーカー4社のうち、3社がロシア事業からの撤退を表明。モバイル通信網の維持に疑念が生じている>

ロシアのモスクワ・タイムズ紙が、国内の民間向けモバイル回線の維持に懸念を示している。ウクライナ侵攻を受け、ノキア、エリクソン、ファーウェイなど外資系通信企業大手が同地での事業から続々と撤退、あるいは撤退を表明しているためだ。

記事は専門家の見解として、ロシアの通信事業が「ほぼ完全に外国企業に依存している」と述べたうえで、ウクライナ侵攻後に主要通信機器メーカーがロシアを去っている事態を指摘。このことから国のモバイル通信網の維持に「重大な問題を生じる可能性がある」との見解を示した。

通信事業自体はロシア各社が運営しているが、そのサービス提供に必要なネットワーク機器の大半は、海外企業からの納入に依存している。このうちおよそ半数をノキアとエリクソンが担っていた。

残りはいずれも中国企業であるファーウェイ(華為)とZTEが占めるが、うちファーウェイも他社に追随し、現地での事業停止を表明した。残るはシェア4位であり技術水準が比較的低いとされるZTEのみだ。

通信業界に詳しい米リコン・アナリティクス社のロジャー・エントナー氏は、モスクワ・タイムズ紙に対し、「ロシアがこうしたシステムを自前で維持できなければ、これら(モバイル通信網の)すべてが機能停止することもあり得ます。予想しなかったショックが突如として押し寄せることでしょう」と述べ、将来的に大規模な通信障害を招く可能性を示唆している。

死にゆく技術の博物館に

次世代通信規格の5Gについても、ロシアでは雲行きが怪しくなりはじめた。ノキアの撤退に伴い、同社がロシアのデータ記憶装置製造企業であるヤドロ社と共同で進めていた合弁事業が廃止されたと報じられている。この合弁会社はロシアにおける4Gおよび5G基地局の建設を担っていた。

エントナー氏は合弁解消により、ロシアにおいて次世代5G通信の普及が遅れる可能性があると指摘している。「2022年にロシア以外の世界が前進してゆくのに対し、ロシアは凍結されることになります。(ロシアは)死にゆく技術の博物館となるかもしれません。」

米CNNも同様の見方をしている。すでにノキアがロシアから撤退を表明し、スウェーデンの大手通信機器メーカー・エリクソンもロシア事業を無期限で停止したことで、「同国(ロシア)の超高速5Gネットワークの構築能力に疑問の目が向けられている」と報じる。

単純に5Gへの移行が遅れる以外にも、現在主流となっている4G通信網の維持に支障が出る可能性がある。大手機器メーカーの撤退により、機器の故障の際に更新を行えないリスクが現実のものとなってきた。

米による制裁避けたいファーウェイ

ノキアの撤退とエリクソンの無期限停止につづき、4月に入ってからファーウェイもロシア事業の一時停止を表明した。報道によると一部従業員を1ヶ月間の休職としている。同社には、欧米が主導する制裁の抜け穴とみなされることを避けるねらいがある。

ファーウェイ製品の多くはアメリカ製のチップや製造設備などを用いており、制裁対象であるロシアへの輸出にあたっては、アメリカ政府の承認を必要とする。これに違反した場合、同社がアメリカで展開するビジネスが制裁を受けるリスクがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷主は「

ワールド

UBS資産運用部門、防衛企業向け投資を一部解禁

ワールド

米関税措置の詳細精査し必要な対応取る=加藤財務相

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中