最新記事

アメリカ社会

森林火災深刻化する米国 消防当局を悩ませる人員不足

2022年5月6日(金)09時40分

バイデン政権は、こうした懸念に対処し人員を補充するために日夜取り組んでいると主張している。だが、東部のノースカロライナ州でさえ森林火災のシーズンが長引いている状況のもとで、あまりにも消防隊員が不足しているという現場の声は広がっている。

「もはや、森林火災の『季節』とは呼べない。通年の現象だ」と語るのは、啓発団体「グラスルーツ・ワイルドランド・ファイアファイターズ」のケリー・マーチン代表。「だからこそ積極的に人を雇い、年間を通じて配備する必要がある」

低賃金、宿舎は不足

農務省林野部の報道官によれば、同部と内務省では、2021年の時点で約1万5000人だった常勤・非常勤の連邦消防隊員を今年は1万6700人に増員し、対応を強化する計画だという。

林野部で州有林・民有林担当副主任を務めるホールリベラ氏は、常勤の消防隊員に区分されていない有資格の職員・委託事業者も、必要に応じて消防サービスに投入することができると話している。

「昨年、最も出動が多かった時期には、2万9000人以上の消防隊員が活動していた」とホールリベラ氏。この数字には、支援に駆けつけた上述のような追加スタッフが含まれていると考えられる。

林野部の報道官は、森林火災のシーズンが長期化し困難な状況が生じている中で、消防隊員の採用・維持という課題を真剣に受け止めていると語る。

「だが、宿舎の問題、さらには、火災が多く負担が非常に重くなる年にワーク・ライフ・バランスをどうするかといった問題について、もっとやるべきことがあるとも認識している」

消防隊員の採用・離職防止を困難にしている要因として林野部職員の多くが挙げるのは、賃金の低さと宿舎不足だ。消防隊員の赴任地は人里離れた地域になることもあり、こうした地域では住宅物件が乏しいか、非常に高額になってしまう場合がある。

米国西部のある地区消防当局者は匿名を希望しつつ、「欠員の補充という意味では、森林火災対策グループにとって、恐らくこれまでで最悪の冬だった」と述べ、こうした状況は広く見られると言い添えた。

北カリフォルニアで働く消防車長は、同地域で林野部管理下にある森林のほぼすべてで、今年、消防隊員の定員充足率が65%を切ると予想されていると指摘した。匿名を条件に取材に応じた連邦消防関係者によれば、場所によっては50%を下回るところもあるという。

林野部の地域区分においてカリフォルニアを含む「第5地域」では、職員の採用・離職防止における主要な問題として、給与、貧弱な宿舎事情、雇用における柔軟性の乏しさを挙げている。

2022年3月付の内部報告には、「体制で欠員が生じても迅速に補充されておらず、長期契約の正職員も第5地域の消防体制から離れつつある」とある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中