最新記事

韓国

尹錫悦次期大統領は経済の「日本化」を回避できるか

WHAT IS SOUTH KOREA’S PRESIDENT-ELECT FACING?

2022年5月2日(月)17時06分
グン・リー(ソウル大学特別名誉教授、経済学)

尹は不動産価格の安定と労働市場の柔軟化を実現できるか  KIM HONG-JIーREUTERS

<韓国経済は今、日本が歩んだ道を追い掛けている。少子高齢化が進むなか、GDP成長率がこの10年で1.4ポイントも下がっているのだ>

3月の大統領選で、韓国の有権者は0.73ポイントという僅差で尹錫悦(ユン・ソギョル)を次期大統領に選出した。保守系の最大野党「国民の力」の尹の勝利は韓国と東アジアに何をもたらすのだろうか。

まず、尹は文在寅(ムン・ジェイン)現大統領が取った米中対立における「戦略的曖昧さ」政策から脱却し、アメリカおよび日本との安全保障・経済関係を復活させる構えを見せている。2017年の大統領選に勝利した文はトランプ米大統領との電話会談の翌日に中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と初の電話会談を行ったが、尹が習と電話で話したのはバイデン米大統領との電話の2週間後だ。

一方、国内で尹は当面、2つの経済政策上の課題に直面する。1つ目は大統領選の争点であり、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補が敗れた主要因でもある住宅価格の高騰だ。

文政権は住宅価格の安定を図るため、不動産関連税率の引き上げ、建て替え規制の強化、住宅ローン審査の厳格化などの対策を打ち出した。だが、こうした需要抑制策は逆効果だった。住宅所有者は増税に憤り、 リフォーム住戸の供給不足で価格がさらに上昇。住宅市場は現金で買う余裕のある購入者への依存を深めていった。

労働者を救えなかった文在寅

第2の喫緊の課題は、労働市場の二極化や若年層向け求人の不足といった雇用問題への対応だ。文政権は労働者の経済的安定を図る狙いで、期間限定および臨時雇用の無期契約(事実上の終身雇用)への転換を試みた。また社員50人以上の企業に週52時間労働制を導入し、最低賃金を引き上げた。

だがこの試みは、韓国の労働市場が財閥企業に過度に保護された労働者と、十分保護されていない中小企業の労働者に分断されている実態を考慮していない。財閥企業は厳しい時間制限と高賃金で働く社員を増やす代わりに自動化の追求に走った。一方、中小企業は新たな基準を満たせず解雇を余儀なくされる例もあった。

尹は労働市場の柔軟性を高め、強力なセーフティーネットを用意すると約束した。しかし北欧モデルをまねたこの構想は、韓国の労働組合には歓迎されていない。

労働市場改革はGDPの潜在成長率と実質成長率の下降傾向を反転させるという長期的課題の解決にも役立つ可能性がある。 韓国は今、日本が歩んだ道を追い掛けている。少子高齢化が進むなか、GDP成長率がこの10年で1.4ポイントも下がっているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中