「永世中立」のスイスがNATOに急接近 ウクライナ危機で揺らぐ国是
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スイスの代名詞となっている永世中立という外交政策が、過去数十年間で最大の試練に直面している。写真はスイスの国旗。ベルンの連邦議事堂で2018年12月撮影(2022年 ロイター/Denis Balibouse)
スイスの代名詞となっている永世中立という外交政策が、過去数十年間で最大の試練に直面している。ロシアのウクライナ侵攻を受け、スイス国防省が北大西洋条約機構(NATO)との距離を縮めようとしているからだ。
国防省の安全保障政策責任者、パエルビ・プッリ氏はロイターのインタビューで、NATO加盟国との合同軍事演習や武器弾薬の「補充」などを含め、スイスが今後採択すべき安保政策に関する選択肢を提示する報告書を策定しているところだと語った。こうした議論が行われていることは、今回のインタビューで初めて明らかになった。
プッリ氏は「最終的には中立の解釈方法に変化が生じる可能性がある」と発言。スイスのメディアによると、アムヘルト国防相も今週の米ワシントン訪問に際して、スイスはNATOに加盟しないが、より緊密な関係を築いていくべきだとの考えを明らかにした。
スイスは中立を貫くことで、第1次世界大戦と第2次世界大戦に巻き込まれずに済んだ。しかし、中立政策はそれ自体が目的ではなく、スイスの安全保障強化が狙いだとプッリ氏は主張。スイス、NATO両軍司令部や政治家間のハイレベル定期会合開催も選択肢の1つだと付け加えた。
中立政策の支持者らは、この方針のおかげでスイスは平和的な繁栄を享受し、東西冷戦下などで国際紛争の仲介者という特別な役割を果たすことができたと唱えている。NATOとの連携に大きく踏み出せば、こうした慎重に育んできた外交政策と一線を画することになる。
折しも同じく中立政策を掲げてきたフィンランドとスウェーデンは、NATO加盟に乗り出そうとしている。プッリ氏は、スイスでもNATO正式加盟問題は議論されてきたと認めつつ、報告書が加盟を推奨する公算は乏しいとの見通しを示した。
報告書は9月末までにまとめられ、内閣の検討を経て議会に提出され、将来の安保政策を巡る審議のたたき台となる。この報告書が採決にかけられるわけではない。
スイス外務省は、経済制裁や武器弾薬輸出、NATOとの関係などの問題を幅広く調査する準備を進めており、国防省はこの調査にも協力することになる。
議論再燃
スイスは、フランス革命とナポレオン戦争で混乱した欧州の安定を取り戻す目的で1815年に開かれたウィーン会議で中立政策を採択して以来、対外戦争を行っていない。1907年の第2回ハーグ国際平和会議では、国際間の武力紛争に参加せず、戦争当事者への武器や人員の支援、国土提供もしないといった、スイスの中立国としての権利や義務が明記された。
中立政策は、スイス憲法に定められている。ただ、自衛権は否定しておらず、憲法の規定でカバーされない政治的事象を解釈によって運用する余地は残している。
政策の基本方針が最後に修正されたのは、旧ソ連が崩壊した1990年代初め。人道支援や災害救助などの分野で、他国と協力する外交政策が許容された。