TVが真実を伝えないロシアで、陰謀論集団「Qアノン」がプーチンを疑いはじめた
プロパガンダに警戒
これに対し、ロシア内の一部Qアノン支持者たちはやや傾向を異にする。世界的なQアノンの動きに反し、ロシアのQアノン・チャンネルでは侵攻開始以降、バイオ研究所陰謀論は急速に沈静化した。アメリカが戦争を裏で主導しているとの主張もほぼ聞かれなくなっている。カナダ系米メディアの『ヴァイス』は、「ロシア内部の陰謀論支持者たちは、プーチンの戦争をまったく異なる目でみていた」と論じる。
もっとも、ロシアのすべてのQアノン支持者が侵攻を疑問視しているわけではない。しかし、少なくとも情報の真偽に注意を払う習慣は着実に広まりつつある。9万人のフォロワーをもつQアノンロシアは、ロシア国営メディアによる報道を引用した3月2日の投稿のなかで、「出典が公的な機関だからといって、必ずしも内容の真実性が保証されるものではありません」との注意書きを添えた。
また、ロシアの別のQアノン・チャンネルは、米議会が出資する欧州報道機関である『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』による客観的な報道を多く引用するなど、中立的な情報の拡散に心を砕いている。
支持者からすれば、これまで信じてきた陰謀論が、結果的にウクライナでの殺りくを肯定する流れとなった。この事実への戸惑いは大きいのだろう。英シンクタンクに務めるキーラン・オコナー氏はベリングキャットに対し、ウクライナ侵攻をどう受け止めてよいかという葛藤が陰謀論コミュニティにはあると指摘する。「ウクライナ情勢に関し、彼らの陰謀論的な世界観にうまくあてはまるような立ち位置を探るのに苦労しているのです。」
これまで侵攻を支持してきたQアノン・チャンネルのなかにさえ、プーチンへの批判に転じるものが現れた。10万人のフォロワーを擁する『Big Shock Theory』は4月9日、「プーチンはドルと西側諸国を打ち砕こうと決意した英雄などではない」と訴えている。
ロシア国営メディアがプロパガンダを広めるなか、もともと謀略に敏感な陰謀論集団が、結果的に侵略の正当性に厳しい目を向ける展開となっている。