最新記事

ウクライナ侵攻

反プーチン派に残ったのは絶望と恐怖と無力感...ロシア国民の本音とは【現地報告】

BACK TO THE U.S.S.R.

2022年4月28日(木)17時35分
アンナ・ネムツォーワ(米オンライン誌「デイリー・ビースト」モスクワ支局員)

220405P18_NEM_07.jpg

モスクワ中心部で行われた反戦集会をバスから眺める(3月6日) Newsweek Japan

高官のロシア離れも続いている。ロシアの経済改革を主導し、大統領特別代表を務めていたアナトリー・チュバイスが辞任し、ロシアを出国。元副首相で、ロシア最大のイノベーション促進機関スコルコボ財団のアルカジー・ドボルコビッチ代表も、ウクライナ侵攻に異議を唱えた後にロシアを離れた。2人は政権内の「リベラル派」の中心人物だった。

ドボルコビッチは米マザー・ジョーンズ誌に対し「戦争は人間が経験し得る最悪のもの」と述べ、「人の命を奪うだけではなく、希望や夢を壊し、関係やつながりを絶ってしまう」と語っていた。

この発言をめぐり、与党・統一ロシアの主要議員はドボルコビッチを「売国奴」と非難。ロシア社会を「自浄する」ためにも免職処分とすべきだと主張した。

ウクライナで死傷者が増え続け、ロシア兵に大勢の犠牲者が出ているなか、プーチン政権は言論の自由を抑圧する新たな措置を講じた。裁判所はメタ(旧フェイスブック)を「過激派組織」と認定し、国内でフェイスブックとインスタグラムを使えなくした。どちらも反体制派だけでなく、多くの慈善団体や中小企業が利用しているサービスだ。

困窮者に食料を提供している団体「ギブ・フード」では、新型コロナウイルスの感染が拡大した際、インスタグラムを通じて寄付を募り、モスクワで高齢者や病人に食事を提供してきた。同団体の関係者は匿名を条件に、5万1000人のフォロワーがいたインスタグラムのプラットフォームが失われたのは痛手だとして、寄付金が急減したと話した。

頭脳流出を防ごうと躍起になるロシア政府

ロシアには不安と絶望が広がっている。サンクトペテルブルクでは3月19日、学生や教員、研究者ら約500人が大学に対し、自分たちを締め出しているとして抗議の声を上げた。

生物学部修士課程の23歳の女子学生は、「ウクライナ侵攻の抗議集会に何度か参加したが、警察に捕まらないよう注意した」と話した。警察が教職員に尋問の手順を送り付けていたからだ。彼女は今、ヨーロッパの大学の国際交流プログラムを利用して出国しようとしている。そうすればロシアの研究機関にいるより、待遇もずっとよくなると言う。

ロシア政府は自国の科学者を引き止めようと躍起になっているが、頭脳流出に歯止めをかけることはできなかった。プーチンも過去に、最先端の科学者についてこう語っている。「ソ連時代のように国内に閉じ込めて締め上げるか、あるいは給料を上げてやるかだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中