最新記事

ウクライナ侵攻

反プーチン派に残ったのは絶望と恐怖と無力感...ロシア国民の本音とは【現地報告】

BACK TO THE U.S.S.R.

2022年4月28日(木)17時35分
アンナ・ネムツォーワ(米オンライン誌「デイリー・ビースト」モスクワ支局員)

220405P18_NEM_06.jpg

「ロシア軍大聖堂」を訪れた若者(3月5日) Newsweek Japan

ウラジミーロフナは、90年代の経済危機の際、サンクトペテルブルクの住民が食糧配給券を使って卵や台所用洗剤、バターなど最低限の必需品を購入したことを、鮮明に覚えている。長い行列ができる憂鬱な時代が戻ってきた。

しかも今回は、経済的・政治的な自由が戻る希望はない。「タイムマシンで過去に戻ったようなもの。物不足の時代に戻った。昨日、薬局でいつもの薬を買おうとしたら、外に長い列ができていた。自分の番になったら、品切れだと言われた」。彼女は本誌にそう語った。

「最悪の問題は医療サービスだ。危機が始まって1カ月もたたないのに、既に必要なものが買えない。診断機械も薬品も西側から輸入しているロシアの病院が、これからどうやっていくのか分からない」

ロシア人の多くは国のプロパガンダを信じ、ウクライナ侵攻を支持している。最高司令官のプーチンが今回の侵略を「特別軍事作戦」と呼び、ロシア軍は住宅や市民生活を破壊しないと保証しているからだ。

独立系のアナリストや世論調査会社によると、一般のロシア人は本音を口にするのを恐れている。独立系世論調査機関レバダセンター所長のレフ・グドコフに言わせると、「プーチンの政策を支持するかと問えば、必ず過半数が『イエス』と答える。でも政府の仕事に満足かと問えば、40%以上が不満だと答える」。

グドコフはまた、制裁によるパニックが表面化しているのは主に大都市で、地方の貧しい人々は都会のエリートが膨大な損害を被っていることを喜んでいると指摘した。

220405P18_NEM_01.jpg

クリミア半島併合を記念する集会でロシアの軍事力の象徴である黒とオレンジの縞模様(聖ジョージのリボン)の旗を掲げる人々(3月18日) Newsweek Japan

50歳以上はソ連時代の生活に戻るのを歓迎

こうした分断は世代間にもある。50歳以上では多くの人が、ソ連時代の生活に戻るのを歓迎している。もともとゴルバチョフ時代の改革など好きではなかったからだ。

欧米嫌いのロシア人の急増も目立つ。昨年11月の世論調査では、「アメリカは嫌い」だと答えた人は42%にすぎなかったが、今年2月には55%に増えていた。

自国の軍隊を支持する動きも活発化している。ロシア連邦の一共和国であるバシコルトスタン共和国では3月18日の「クリミア併合記念日」に、ロシア国旗や「Z」の文字を描いた旗を飾った車両150台以上がパレードを行った。Zはザパド(西)の頭文字で、ロシア西部軍への連帯を表している。

一方で、ロシアでは若年層ほど国内外の情報に触れる機会が多い。プーチンが経済制裁への報復としてロシア産天然ガスの支払いをルーブルに限定したことで、財界人の多くは動揺した。ロシア経済にどんな影響が出るのか、予測できないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中