最新記事

地政学

かつて日本の「敗戦」を決定づけた要衝・ガダルカナルで今、中国がやっていること

A GAME-CHANGING DEAL

2022年4月27日(水)17時32分
パトリシア・オブライエン(歴史学者)
李克強首相とソガバレ首相

2019年秋に北京を訪れ、歓迎式典で中国の李克強首相と並んで閲兵するソガバレ首相 THOMAS PETERーREUTERS

<南シナ海よりもっと南へ──。ソロモン諸島の内紛に乗じた中国の安保協定が、インド太平洋地域すべての国の安全保障態勢を揺さぶる>

南太平洋の国ソロモン諸島と中国が安全保障協定を結ぼうとしている──。そんな驚きのニュースが飛び込んできたのは3月24日のこと。たちまちマナセ・ソガバレ首相に再考を求める声が国内外から噴出した。

だがソガバレは聞く耳を持たず、31日には中国政府が、ソロモン諸島と安全保障協定を結ぶことで基本合意に達したと発表した(編集部注:4月19日に正式締結)。

なぜ、この協定がそれほど大きな波紋を呼んでいるのか。

その背景には、ソロモン諸島の緊張をはらんだ国内情勢と、中国と台湾(とアメリカやオーストラリアなどの同盟国)の関係悪化という地政学的な要素が複雑に絡み合っている。中国とソロモン諸島が本当に安全保障協定を結んだのなら、インド太平洋地域の全ての国が安全保障態勢の見直しを迫られる恐れがある。

まずはソロモン諸島の国内情勢を見ておこう。1978年にイギリスから独立して以来、ソロモン諸島最大の島で首都ホニアラがあるガダルカナル島では、先住民とよその島(主にマライタ島)出身者との間で対立が絶えなかった。それは時折大きな衝突に発展した。

特にひどかったのが98年の武力衝突だ。ようやく2000年に和平協定が結ばれたが、執行が不十分だったため国内の緊張は解決せず、03~17年には太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国の警察や軍隊から成るソロモン諸島地域支援団(RAMSI)が、平和維持活動を展開する事態にまでなっていた。

つい最近の昨年11月にも、ソガバレの緊急要請を受けて、オーストラリアとニュージーランド、フィジー、パプアニューギニアの平和維持部隊がソロモン諸島に派遣されたばかりだった。とはいえ、このときの騒乱の一因はソガバレにもある。

台湾と断交して中国と国交を樹立

ソロモン諸島はかねて台湾と外交関係があったが、19年にソガバレが首相に就任(通算4期目)すると断交に転じ、代わりに中国と国交を樹立。さらに政府は台湾に友好的なマライタ人を冷遇したため、昨年11月にマライタ人が中心となってソガバレ政権の退陣を求めるデモが起きた。

最初は平和的な行進だったが、警察が乱暴に取り締まろうとしたため、デモ隊が暴徒化。ホニアラのチャイナタウンなどで商店の略奪や放火が相次ぎ、死者も出る事態に発展した。

マライタ人指導者たちは、ソガバレは支持率も低いし、政権も腐敗し切っているのに、平和維持部隊のおかげで権力の座にとどまっていると批判した。また、ソガバレは中国の傀儡だと警告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中