台湾に対する米国の戦略的曖昧政策は終わるべきだ
いま台湾有事が起きたらアメリカはどう動く? Stephen Lam-REUTERS
<ロシアの侵攻を受けたウクライナを台湾に重ね、中国の侵攻があった場合にアメリカは台湾防衛の意思を明確にすべきと主張し、話題を呼んだ安倍晋三元首相の国際論評・分析サイト「プロジェクト・シンジケート」への寄稿文。その日本語版を掲載する>
ロシアによるウクライナ侵略は、中国と台湾の危機をはらんだ関係を多くの人に想起させた。
ウクライナと台湾をめぐる情勢には、3つの類似点がある。しかし深刻な違いもある。
第一の類似点は、ウクライナとロシアの関係においてそうだったと同様、台湾と中国の間には、非常に大きい軍事力の格差があるということだ。しかも差は年々大きくなる一方である。
第二に、ウクライナにも台湾にも、明確な同盟国が存在しないことだ。単独で、脅威、ないし攻撃に立ち向かわざるを得ない。
第三には、ロシア、中国は、いずれも国連安全保障理事会で拒否権をもつ常任理事国だということだ。ロシア、中国が関わる紛争に関しては、国連の調停機能を全く当てにすることができない。この点、現に発生したロシアのウクライナ攻撃、あり得るかもしれない台湾危機の、どちらの場合にも共通している。
しかし台湾をとりまく状況は、さらにのっぴきならない。
台湾に、同盟国はない。しかし台湾と米国との間には、台湾関係法がある。「台湾が十分な自衛能力を維持するために必要な」軍備、装備品を、米国が台湾に提供することを定めた1979年の法律だ。
けれどもこれは、台湾が攻撃された場合、「台湾を防衛する」と、米国として明確に言おうとしないかわりの、埋め合わせとして機能してきた。いまや、この方式は変わるべきである。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、米国が早々に表明したことは、ウクライナに米兵を投入しないということだった。一方台湾に対し、米国は戦略的曖昧政策を採用している。ここが第二の相違点で、台湾にまつわる危機に際して米国は武力介入するか、どうか。そこをあえて曖昧なままにしている。
台湾への攻撃に対してどういう対応を取るか、米国は定義しないままにしておくことを選好しているために、中国は(少なくとも今までは)軍事的冒険を踏みとどまらされてきた。これは、米国が本当に軍事介入する可能性を、中国の指導者たちは計算に入れざるをえないからだ。一方、台湾に対しては、「武力介入しないかもしれない」と思わせ、急進的独立派を抑止してきた。「ヤヌスの顔」をあえて見せるのが、米国年来の戦略的曖昧政策だ。
しかしウクライナ、台湾を比べて指摘できる第三の相違点は、最も深刻で、米国の戦略的曖昧政策に、強く再考を促すものとなっている。
それは端的に、ウクライナは明確に独立した国家であるのに対し、台湾はそうではないということだ。