NY銃乱射事件 犯人が「黒人」だと、あえて報じない米リベラルメディアの罪
Going Beyond Ideology
フランク・ジェームズ容疑者 Andrew Kelly-REUTERS
<NY地下鉄銃乱射事件を起こしたフランク・ジェームズ容疑者。米主要メディアが報じない「黒人アイデンティティー過激派」という現実>
4月12日、ニューヨーク市の地下鉄で銃乱射事件が発生。撃たれた10人を含む23人が重軽傷を負った。翌日逮捕された容疑者のフランク・ジェームズ(62)は、アフリカ系アメリカ人でSNSやYouTubeで黒人ナショナリズムへの傾倒を表明し人種差別への不満を漏らしていた。
だがリベラル系メディアは、ジェームズがSNSに残したヘイト(憎悪)の痕跡を報じなかった。黒人であることへの言及すら躊躇したメディアも少なくなかった。
普通、リベラル主流派は人種差別的な過激主義に固執する。昨年6月にバイデン政権は国内テロ対策を発表。白人ナショナリストによるテロをアメリカの国家安全保障にとって最も危険な脅威に挙げた。
左派ネットメディア「インターセプト」は2019年の記事で「FBIがでっち上げた『黒人アイデンティティー過激派』の奇妙さ」と見出しを付け、黒人アイデンティティー過激派も黒人ナショナリズム同様、人種差別的な思い込みだと主張した。
リベラル主流派は、過激主義であるか、テロであるかを肌の色で決める。白人については過激主義と人種を結び付け、マイノリティーをテロに走らせる過激主義については軽視するのも偶然ではない。リベラル寄りのメディアを消費する富裕層にとって、白人であること自体がやましく、有色人種は罪のない犠牲者なのだ。黒人ナショナリズムは21世紀のアメリカのリベラリズムの土台を逆転させる。
一方、白人の過激主義を利用することはリベラル寄りのメディアにはいいことずくめ。だから白人ナショナリズムをセンセーショナルに取り上げ、マイノリティーの過激主義には一切触れないのだ。
黒人迫害の歴史も背景に
こうした過度の単純化は人種的混乱に拍車を掛け、批判的な検証を行いづらくする。さらには別のタイプの過激主義がはびこる余地も与える。
彼らが躊躇する原因は理解できる。米メディアは長年、犯罪を極めて悪質な形で人種化し、黒人は加害者で白人は被害者という構図をひどく誇張してきた。黒人社会から生じた過激主義に向き合いたがらないのは、黒人の活動組織や公民権運動指導者に対する弾圧など、現実に黒人を迫害してきた歴史によるところも大きい。