最新記事

ロシア

ロシア国民を監視する巨大盗聴システム 北欧通信大手が協力

2022年4月8日(金)17時11分
青葉やまと

ロシア国内の通信各社のシステムは、「SORM(ソーム)」と呼ばれる中央監視装置に接続することが義務づけられている...... Risto0-iStock

<ロシア国民の通信を一括して傍受する、巨大ネットワーク「SORM」。その接続機器の導入とサポートを通信大手が支援してきた>

フィンランドに本社を置く通信機器開発のNokia(ノキア)は、経済制裁に従ってロシアへの輸出を停止した。しかし、同社が稼働を助けていた電話傍受システムはそのまま稼働し、ロシア国民の監視を続けているようだ。米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。Nokiaは声明を通じて一部反論している。

ロシア国内の通信各社のシステムは、「SORM(ソーム)」と呼ばれる中央監視装置に接続することが義務づけられている。政府と保安局はSORMを通じ、令状を一切取得することなく、国民の通話内容の傍受、SMSや電子メールの検閲、ネット閲覧履歴の取得が可能だ。

報道によるとNokia自体はSORM装置を製造していないが、ロシア最大の通信企業であるMTS社に対し、SORMに接続するための機器を納品し、稼働のサポートを行なっていた。

2テラバイトの流出文書

同紙は2008年から2017年にかけてNokiaが作成していた、SORM関連の技術文書を入手した。2テラバイトに及ぶ膨大な文書群となっており、ロシア語でのSORMの略称である「COPM」の記述を確認できる。一連の文書には、ライセンス契約、社内メール、ネットワーク・センター内の配置図や、技術仕様などが詳細に記録されている。

文書には、SORMによって収集されたデータがロシア政府と各地の連邦保安局のオフィスに送信されることを示した記述や、エンジニアの派遣記録などが含まれている。このことから同紙は、Nokia側が傍受の事実を認識していたとみている。

記事は「ロシアのサイバースパイ行為を実行可能にするうえで、このフィンランド企業(Nokia)が中核的な役割を担っており、企業の信頼性を疑問視する声が上がっている」と指摘した。

欧州政策分析センターのアンドレイ・ソルダトフ特別研究員は、Nokiaの協力がなければ「このようなシステムを構築することは不可能だったはずです」と述べ、同社が重要な役割を果たしたとの見解を示している。

Nokiaは反論、「中核的な役割」を否定

Nokiaは記事公開と同日、声明を発表し、ニューヨーク・タイムズ紙の報道内容に反論した。

「Nokiaは、この記事が誤解を招くものであると確信しています。Nokiaがニューヨーク・タイムズに対し明言しているとおり、NokiaはSORM機器またはシステムの、製造、設置、サービス提供を行なっていません。我々が行なっているとするあらゆる推測は誤ったものです。」

同社はSORMの存在について否定しなかった。すべての国のあらゆるネットワークには、法執行機関が犯罪行為を追跡するための「合法的な傍受システム」が存在すると説明している。そのうえで、SORM機器を稼働させるうえでNokiaのネットワークが「積極的に」関与しているとする記事の趣旨について、「これは誤りです」ととくに強く否定した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中