ロシア国民を監視する巨大盗聴システム 北欧通信大手が協力
ただし、声明を注意深く読むと、中央監視システムである「SORM機器」自体の製造とサービスは行なっていないと断言しているものの、同システムに「接続」するための機器の導入と業務支援を実施したことについては否定していない。
声明は同社の機器について、ほかの事業者が提供する機器と同様、現地の規制に準拠するためにデータを当局に仲介する「受動的な能力」を有すると説明している。「受動的な能力」の具体的内容は不明だが、SORMの中心部には関与していないものの、通信事業者からSORMにデータを流す機構は提供したとも読める。
カナダのモントリオール・ガゼット紙はNokia側の反論について触れながら、同社が「あるいは無意識のうちに」傍受を補助した可能性があると論じた。
1865年にパルプ会社として創業したNokiaは、1970年代から技術部門を拡大。90年代には携帯市場を席巻したがスマホへの転換で出遅れ、凋落を経験した。2013年に携帯事業から撤退し、現在は通信機器メーカーとして世界3位の規模を誇る。
ロシアの標準は「民主社会の基準を超越」
SORMのような監視システムはロシア以外でも世界の多くの国に存在し、捜査当局による犯罪捜査などに活用されている。ただし、ロシアでは裁判所の命令なくしてユーザーの通信履歴を政府が取得できる点で、多くの民主主義国家とは運用基準が異なる。
国際人権NGO「フリーダム・ハウス」でリサーチ担当重役を務めるエイドリアン・シャフバズ氏は2019年、米技術誌の『テック・クランチ』に対し、「しかし、ロシアの各機関がどのようにこの類の装置を使っているかを鑑みれば、それが民主社会での基準をはるかに超越していることは明らかです」と述べている。同誌は、「長きにわたりロシアは、人権侵害の疑惑にさらされてきた」とも指摘している。
SORMは市民の通話の盗聴や反体制派の監視にも利用され、以前から問題視されてきた。2013年には、反プーチン派の中心人物であり野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏に対する裁判において、SORMが傍受したとみられる通話記録が氏を追い詰めるための証拠として使用された。
ロシアMTS社が現地で事業を行うためは、SORMへの接続機能が必須であり、Nokiaはその導入・運用を支援した形となる。しかし、現地の法令に則している限り政権による無制限の傍受を支援しても問題ないとするスタンスは、人道的見地から波紋を呼びそうだ。