最新記事

葬儀

60日かけて遺体を土に還して「堆肥」にする「テラメーション」が人気に

“We Compost Human Bodies”

2022年4月8日(金)17時43分
マイカ・トゥルーマン(リターンホーム創業者)
マイカ・トゥルーマン

動物実験で作った堆肥のサンプルを手にする筆者 AP/AFLO

<人の遺体をおがくずなどと共にじっくり眠らせ、微生物の働きで土に還す。火葬や土葬よりはるかに地球に優しい新たな葬法が、特に若い世代から注目を集めている>

地味だが荘厳な葬儀の仕事を、自分の天職と心得る人もいるだろう。だが、私は違った。40代半ばまでは金融畑の仕事をして、中国とアメリカを忙しく行き来していた。とても充実していた。でも、そこへ転機が来た。本当に意味のある仕事がしたい、この地球に何かの恩返しがしたい。そう思うようになった。

私の住む米ワシントン州は、2019年にアメリカで初めて「テラメーション」を合法化した。火葬でも、棺に納めて土に埋めるのでもなく、遺体を自然に土に還す葬送の仕方だ。この話を聞いたとき、当時70代後半だった母は、自分もそうしてくれと言った。

人は誰でも死ぬ。だからこそ地上で最後の行為は持続可能で、地球に恩返しできるものにしたい。だが、火葬も納棺土葬も持続可能には程遠い。1回の火葬には通常115リットル近い燃料が使われ、大気中に排出される二酸化炭素は245キロと推定される。一方、一般的な納棺土葬は場所を取るし、遺体の腐敗を防ぐために発癌物質のホルムアルデヒドを使うことが多い。

でも、テラメーションは違う。これは世界の葬送の仕方を変える可能性があると、私には思えた。だから意を決して、協力してくれそうな人に声を掛けた。各方面のエンジニアや土壌化学の専門家、葬祭業者、遺体整復師、建設業者や機械メーカーなどだ。そうしてコロナ禍で対面の打ち合わせもできないなか、2年がかりで試行錯誤を重ね、州当局の認可を得て昨年6月に事業をスタートした。

消費するエネルギーは火葬の10分の1

私たちのテラメーションでは60日かけて、遺体をゆっくりと土に還す。消費するエネルギーは火葬の10分の1ほどだ。遺体を横たえる容器を、私たちは棺ではなく「ベセル(舟)」と呼ぶ。これからの旅は長いからだ。

ベセルにはワラやおがくずなどの有機物を詰めて密閉する。そして酸素を送り込んで循環させる。そうすると体内の微生物の働きで、遺体は少しずつ土に戻っていく。

ここまでで1カ月。2カ月目は土をじっくり寝かせ、呼吸させる。出来上がった土は遺族に返す。それは家庭菜園で使うコンポスト(堆肥)のような甘い香りがする。

大切な土だ。持ち帰って、親戚の人や友人たちに分けるのもいい。庭にまいて、花や樹木を育てるのもいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中