最新記事

人権問題

世界はプーチンの非道を裁けるか 「戦争犯罪」訴追の壁

2022年4月4日(月)15時19分
ロシアのプーチン大統領

キーウ(キエフ)近郊のブチャで民間人とみられる多数の遺体が見つかったことに、ウクライナはロシアの戦争犯罪だと非難し、ドイツやフランスなど諸外国は激しい怒りを表明している。写真はロシアのプーチン大統領。クレムリンで3月30日撮影。露大統領府提供(2022年 ロイター)

キーウ(キエフ)近郊のブチャで民間人とみられる多数の遺体が見つかったことに、ウクライナロシアの戦争犯罪だと非難し、ドイツやフランスなど諸外国は激しい怒りを表明している。

ブチャの市長は2日、ロシア軍による1カ月間の占領中に住民300人が殺害されたと述べた。ロイターは共同墓地や路上で犠牲者を確認した。

一方、ロシア国防省はウクライナ側の主張を否定。ブチャで撮影した遺体の映像や写真は、ウクライナ政府による「新たな挑発」と退けた。

これまでもウクライナと西側同盟諸国は、南東部マリウポリで産科小児科病院や子どもが避難する劇場を爆撃した例を挙げ、ロシア軍が民間人を無差別に標的にしていると批判してきた。しかし、ロシアは民間人を狙ったことを否定し、戦争犯罪に当たるとの指摘をはねつけてきた。

プーチン大統領らロシア指導者を戦争犯罪で裁くことは可能なのか。法律の専門家によると、訴追はハードルが高く、時間を要する可能性がある。以下に概要をまとめた。

◎戦争犯罪の定義

オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)は、戦争犯罪を第二次世界大戦後に締結されたジュネーブ諸条約の「重大な違反」と定義している。法律の専門家によると、故意に民間人を攻撃することや、「過大な」民間人の犠牲を伴うであろう正当な軍事目標への攻撃が違反行に含まれる。

旧ソ連は1954年のジュネーブ会議の協定を批准した。ロシアは2019年、協約の1つについて承認を無効化したが、その他の協約については今でも署名国だ。

◎訴追手続き

ICCのカリム・カーン主任検察官は先月、ウクライナにおける戦争犯罪の可能性について捜査を開始したと述べた。

ロシアはICCに加盟しておらず、法廷を認めていない。ウクライナも加盟していないが、2014年のロシアによるクリミア編入にさかのぼり、ICCが自国領土内での残虐行為を捜査することを認めている。

ロシアはICCへの協力を拒む可能性があり、被告が逮捕されるまで審理はずれ込みそうだ。

◎戦争犯罪の証明基準

戦争犯罪が行われたと「信じるに足る根拠」を検察官らが示すことができれば、ICCは逮捕状を発行する。専門家によると、検察が有罪判決を勝ち取るには、合理的な疑いの余地のない罪を証明しなければならない。

大半のケースでは、検察は被告の「意図」を証明する必要がある。攻撃した地域に軍事目標が存在せず、かつ偶発的な攻撃ではなかったことを示すことが、証明の1つの方法だ。

米ハーバード法科大学院のアレックス・ホワイティング客員教授は「攻撃が幾度も繰り返され、しかも都市部の民間人を標的にしている戦略のようであれば、意図的に行ったことを示す強力な証拠になり得る」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中