ウクライナ侵攻受け欧州でNATO拡大機運 「安全保障上のロシアの脅威」現実に
ロシアはこれまで、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟には繰り返し反対しており、インタファクス通信によると、3月12日の外務省談話で、両国が加盟すれば「重大な軍事的、政治的結果を招く」と警告している。
ストルテンベルグ氏は、フィンランドとスウェーデンが「速やかに」加盟することは可能との考えを示した。今年1月には、「プーチン氏はロシアと国境を接するNATO加盟国が減ることを望んでいる。だが(現実には)彼がNATO加盟国を増やしつつあるのだ」と述べている。
戦争の記憶
ロシアとの国境近くにあるフィンランドの町イマトラで暮らすクーセラさん(80)は、実際の戦争を知る1人だ。1939年から44年の間に当時のソ連がフィンランドに2回侵攻し、幼かったクーセラさんは父を失い、兄弟とともにスウェーデンに逃れた。戦争が終わって帰国し、父が眠る墓を訪れた。「(当時のことは)いつも心の奥底にある。父が生きていればどんな感じだったのだろうか」と話す。
フィンランドはソ連との戦争で約9万6000人が死亡、5万5000人の子どもが父親を失った。ソ連への領土割譲で40万人余りが家をなくした。
だが、フィンランド国民は頑強に抵抗する姿勢を示し、この戦争以降は強力な国防力を持ちつつ、ロシアと友好関係を築くという明確な国家目標を定めてきた。同国は徴兵制を敷き、男女合わせた予備役はおよそ90万人。国際戦略研究所(IISS)によると、欧州最大級の規模だ。フィンランドとロシアの国民同士の交流は活発で、イマトラでは今年、1772年にロシア帝国のエカチェリーナ女王が当地を訪れてから250年を迎えたことを祝う催しも計画されていた。
現在、イマトラにあるロシアとの国境検問所は警備の人員が配置されていない。フィンランドの治安当局は、ロシアの軍事力がウクライナや国内の作戦に集中的に投入されていると説明。それでも、状況はあっという間に変わり得ると警告した。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、フィンランド国内では各地の予備役部隊、女性だけの予備役部隊に応募する人が増えている。応募した女性の1人のルーメさん(48)はイマトラ近郊の住民で「国民は祖国を守る意思を誰もが持っていると思う」と語った。
フィンランドは食料、燃料、医薬品の国家的な緊急配給制度を持つ数少ない欧州諸国の1つ。第二次大戦以降、全ての主要な建物は地下シェルターを備えることが義務付けられ、全国5万4000の施設に人口550万人のうち440万人を収容できる。
NATO加盟支持者はここ1カ月で増加し、直近の世論調査で加盟賛成が62%、反対はわずか16%となった。