最新記事

歴史

1500人の女性を囲い17人に子ども54人を産ませた「好色将軍」徳川家斉が実子を増やし続けた理由とは

2022年4月22日(金)17時27分
河合 敦(歴史研究家・歴史作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

若いときは放った鷹が鶴を捕らえ、地上に下りると、自ら駆け寄って鶴を取り押さえたこともあった。だが、嘴で怪我をするからという老臣の諫めにより、そうした行為はやめたというが、鶴が捕獲できると御膳所(ごぜんしょ)まで行き、しばしば鶴の血液を入れた「鶴血酒」をつくらせ、家中にふるまったそうだ。

家斉の鷹狩りの技術は卓越しており、風の逆順、地形の善し悪しなどを自ら見定めて鷹を放ち、巧みに獲物を捕らえたので、老練な鷹師も家斉の腕前に感服するほどだった。

家斉は経験だけでなく、鷹に関する研究書も読みあさって理論的に鷹狩りの技術を向上させていった。諸家に所蔵している本まで提出させ、数百部も集め、自ら研究したのである。本の内容はほとんど暗記してしまったという。

三国志が好きで諸葛孔明の絵をよく描いていた

ちなみに家斉は家治同様、異常な記憶力の持ち主だった。

たとえば、弓馬始めなどの家臣の武芸披露のさい、多くの諸士が技を披露するが、家斉は後日、その者たちの姓名だけでなく、「其人々の品格までもよく御覚あり」、「誰はかやう。誰々はかやうの人物など」と話すので、「いかでかくは御覚あることよと。御かたはらの人々ひそかにいひあへり」(前掲書)と大いに驚いたという。

文化系の趣味としては、絵をよく描いた。といっても、もっぱらそれは諸葛孔明の絵であった。家斉は読書好きで、とくに『三河記』や『家忠日記』、『北越軍談』、『甲陽軍鑑』といった家康やその時代に関係する日本史を乱読し、暗記するほどだった。

家斉はいう。「吾邦(日本)の事なれば其儘(そのまま)に活用し易し。海外の事蹟(じせき)捜索せんことは津涯(かぎりない)なければ。渉猟(探し求める)するにいとまなし」(前掲書)

このように日本史は日本の出来事なので、いまに活かしやすいが、世界史はあまりに範囲が広すぎて調べきれないといっている。

とはいえ、歴史のなかで三国志が大好きで、よく家中にも折に触れて諸葛孔明の活躍を語ったという。休息所の杉戸などにも絵師に命じて孔明の像を描かせ、自分でも頻繁に孔明の像を描いては家臣に与えたのである。

側室が家斉に言った強烈な嫌味

花も愛した。自ら花を生け、小姓たちに花生け(花器)などを与えている。老木や竹根など天然の素材を花と組み合わせるのが好きだったようだ。だから諸侯から銀などをあしらった生け花が届くと、機嫌が悪くなったという。

あるとき御座所に家斉が植えた牡丹数株のうち、色がうつろいたる(変色した)ものがあった。それを見つけた家斉は、「これは衰たり。見るべくもあらず」(『徳川実紀』)と述べて破棄するように命じた。

すると近くにいた側室が、「牡丹はそれでよろしいのでございます。上様の召し使う奥女中も同じこと。また、表向きの政治に携わる役人も、色がうつろったときこそ役に立つのです。仕えはじめたころは、誰もが新鮮で時めいて見えるものですが、花の色がうつろうようにだんだんと目立たなくなります。でも、そうなってからこそ、お役に立つのです」と述べたので、家斉はその側室に対して、「さてもよくぞ申した」と褒めたという。が、これはその女性の家斉に対する強烈な嫌味だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中