テロリストたちの「新たな聖地」を支配する、謎の組織「HTS」とは何者か?
A NEW TERROR CAPITAL
今のアメリカは、国連安全保障理事会での協議を通じて300万人の国内避難民への人道支援を円滑に進めることしか考えていない。そして地域の治安維持は、全てトルコに任せるということだ。「ロシアのメンツをつぶさないように配慮しつつ人道支援を進める一方、現状の固定化を図るトルコを支持し、トルコがロシアとの協議で優位に立てるようにする。それがアメリカの狙いだ」と指摘するのは、スウェーデン国防研究所のアロン・ランド。「しかし、それは困った状況だ。なにしろシリア問題を除けば、アメリカとトルコの立場は全く異なっている」
トルコはHTSと協力関係にある。HTSの実効支配する地域が、トルコの反政府勢力であるクルド人を監視・摘発するのに欠かせない場所だからだ。しかしトルコには、そこにいるテロリストを監視する気も摘発する気もない。
反体制派でも穏健な自由シリア軍(FSA)に属するある活動家は匿名を条件に、イドリブ県を安定させるには現地のイスラム過激派を一掃するしかないと語った。「いずれ全てのイスラム過激派と戦うことになる。彼らがいる限りシリアに平和は来ない。あとは時間の問題だ」
それが可能ならアメリカも大喜びだが、穏健派がHTSの精鋭部隊に勝てるとは誰も思っていない
イスラム国の残党との見方も
シリア東部を拠点とするクルド人勢力の政治組織「民主連合党」のサレハ・モスレムによれば、1月にシリア北東部ハサカの刑務所を襲撃して大勢の仲間を奪還したIS戦闘員の大半は、HTS支配下の地域からやって来た。そんな「HTSはISの残党」だと、モスレムは言う。
クルドとトルコは宿敵同士だが、どちらもシリアではアメリカと協力してきた。しかも、クルド人はISとの戦いで多くの血を流している。そのISをかくまう「HTSは解体すべきだ」と、モスレムは訴える。「米軍はHTSも標的にすべきだ」
アメリカはシリア北部で何をすべきか決めかねている。当然だろう。そもそも、シリアをどうしたいのかという目標がない。頑迷な当事者たちの複雑怪奇な関係を調整する手だてもない。
協力関係にあるクルド人勢力を守り、イドリブ県に潜むイスラム過激派を一掃するために米軍がシリアに永遠にとどまるという選択肢は、何の解決にもならない。外交ルートを通じてトルコとロシアに働き掛け、HTSにもアサド政権にも自重を促し、シリア全土の安定に向けた妥協策を探ることは可能かもしれない。
だが、それも現状では極めて難しい。だからバイデン政権は長期の目標を捨てて、短期の戦術的な成果だけを追い求めている。具体的にはシリア北部における人道支援とテロリストの掃討だ。そしてアルカイダやISの幹部の首を取れたら、それを「成果」と呼ぶのだろう。
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