最新記事

テロ組織

テロリストたちの「新たな聖地」を支配する、謎の組織「HTS」とは何者か?

A NEW TERROR CAPITAL

2022年3月31日(木)12時50分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)

220405P51_SLA_02v2.jpg

自爆したISの指導者アブイブラヒム・ハシミ STATE DEPARTMENTーTHE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

HTSは「アルカイダとの関係は絶った」と主張し、アサド政権に代わってシリア国民を合法的に統治する能力はあると言いたいらしい。確かにHTSの庇護下にあるイドリブ県の行政機関「救済政府」は、域内の住民に教育や医療などのサービスを提供している。アフガニスタンのタリバン同様、今のHTSは愛国的なイスラム主義の政治団体なのだから、そのように認知してほしいと願っているようだ。

トランプ前米政権でシリア特別代表を務めたジェームズ・ジェフリーも、アサド政権に圧力をかける上でHTSを有益な存在と見なし、彼らと米政府の間に裏ルートを築いていた。アサド政権の打倒こそ、アメリカの主目的だったからだ。

だが今のバイデン政権は、トランプ時代の目標(シリアのアサド政権を打倒し、代わりに民主的な勢力を政権の座に就ける)が今や達成不能なことを認めている。では、HTSとはどう付き合うのか。この点について、バイデン政権の方針は固まっていない。HTSと手を組んでISに対抗するのか。あるいは、HTSもテロリストの仲間と見なすのか。

「アメリカ国内で、HTSと手を組むという方針に幅広い支持があるとは思えない」と語るのは、米シンクタンク「外交政策研究所」のアーロン・スタイン調査部長。「HTSはアメリカ人の血で自らの手を染めてきたイスラム聖戦主義者の仲間──そういう理解が一般的だと思う」

バイデン政権に将来のビジョンなし

ISの指導者をかくまっていた事実が明らかになれば、HTSがイドリブ県の統治者として国際社会に認知される可能性は低い。

米陸軍士官学校テロ対応センターのダニエル・ミルトン部長に言わせれば、ISの指導者が2代続けてイドリブ県に潜伏していた以上、「われわれとしては彼ら(HTSとアルカイダ、そしてIS)の関係についての従来の評価を見直さなくてはならない」と語っている。

オクラホマ大学中東研究所のジョシュア・ランディス所長は、トランプ時代にはHTSを支えることがアメリカの影響力を高め、アサド政権によるイドリブ県攻撃の阻止につながると考えられていたと指摘する。しかし「ISの最高指導者が2代続けてイドリブ県に潜んでいた事実が明らかになった以上、そういう認識は変わらざるを得ないだろう」と、ランディスは言う。

つまり、イドリブ県でアルカイダやISのメンバーをかくまっている限り、HTSの正当性を認めることはできないということだ。だがバイデン政権には、その先のビジョンがない。シリア北西部を反体制派が支配することをアサド政権に認めさせ、悲惨な内戦を終わらせる戦略がない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中