テロリストたちの「新たな聖地」を支配する、謎の組織「HTS」とは何者か?
A NEW TERROR CAPITAL
HTSは「アルカイダとの関係は絶った」と主張し、アサド政権に代わってシリア国民を合法的に統治する能力はあると言いたいらしい。確かにHTSの庇護下にあるイドリブ県の行政機関「救済政府」は、域内の住民に教育や医療などのサービスを提供している。アフガニスタンのタリバン同様、今のHTSは愛国的なイスラム主義の政治団体なのだから、そのように認知してほしいと願っているようだ。
トランプ前米政権でシリア特別代表を務めたジェームズ・ジェフリーも、アサド政権に圧力をかける上でHTSを有益な存在と見なし、彼らと米政府の間に裏ルートを築いていた。アサド政権の打倒こそ、アメリカの主目的だったからだ。
だが今のバイデン政権は、トランプ時代の目標(シリアのアサド政権を打倒し、代わりに民主的な勢力を政権の座に就ける)が今や達成不能なことを認めている。では、HTSとはどう付き合うのか。この点について、バイデン政権の方針は固まっていない。HTSと手を組んでISに対抗するのか。あるいは、HTSもテロリストの仲間と見なすのか。
「アメリカ国内で、HTSと手を組むという方針に幅広い支持があるとは思えない」と語るのは、米シンクタンク「外交政策研究所」のアーロン・スタイン調査部長。「HTSはアメリカ人の血で自らの手を染めてきたイスラム聖戦主義者の仲間──そういう理解が一般的だと思う」
バイデン政権に将来のビジョンなし
ISの指導者をかくまっていた事実が明らかになれば、HTSがイドリブ県の統治者として国際社会に認知される可能性は低い。
米陸軍士官学校テロ対応センターのダニエル・ミルトン部長に言わせれば、ISの指導者が2代続けてイドリブ県に潜伏していた以上、「われわれとしては彼ら(HTSとアルカイダ、そしてIS)の関係についての従来の評価を見直さなくてはならない」と語っている。
オクラホマ大学中東研究所のジョシュア・ランディス所長は、トランプ時代にはHTSを支えることがアメリカの影響力を高め、アサド政権によるイドリブ県攻撃の阻止につながると考えられていたと指摘する。しかし「ISの最高指導者が2代続けてイドリブ県に潜んでいた事実が明らかになった以上、そういう認識は変わらざるを得ないだろう」と、ランディスは言う。
つまり、イドリブ県でアルカイダやISのメンバーをかくまっている限り、HTSの正当性を認めることはできないということだ。だがバイデン政権には、その先のビジョンがない。シリア北西部を反体制派が支配することをアサド政権に認めさせ、悲惨な内戦を終わらせる戦略がない。