最新記事

外交

韓国「尹錫悦」新大統領、「日米との関係強化」「脱中国」路線の危うさ

Balancing China and the US

2022年3月31日(木)11時18分
ニクラス・スワンストローム(スウェーデン安全保障・開発政策研究所所長)

尹は今後、韓国の安全保障を経済的、軍事的、地政学的に強化するため、民主的で同じ考えを持つ諸国への関与を深めていくだろう。具体的には、ダメージを受けづらいサプライチェーンの多国間ネットワークの構築や、民主主義国間における5Gなどの技術協力、気候変動や途上国開発、世界規模の公衆衛生問題について協働していくことになる。

こうした関与は中国との関係を断ち切ることを意味しないが、尹はアメリカやその他の民主主義国とイデオロギー的に歩調を合わせ、協力体制を可能な限り促進するつもりだ。

加えて米政権からは、新疆ウイグル自治区や台湾、香港などにおける中国の振る舞いに対してより断固とした立場を取ること、また中国への輸出や経済依存の現状について大きな圧力を受けている。

対日関係にも変化が

文政権の新南方政策は、アジア太平洋へのさらなる関与政策の一環として継承されるだろう。尹にとって北朝鮮は文政権ほど重要性が高くないため、より広域においてアメリカと今までよりも直接的に協働していくことになる。尹は日米豪印戦略対話(クアッド)に関する韓国の役割に大いに期待しており、いずれ韓国もクアッドの一員になることを目指すだろう。

韓国が民主主義陣営にここまで接近してきている現状は、かつて韓国にとって北朝鮮が最優先課題であり、文が南北関係の向上を目指す際に他国との関係性を鑑みなければならなかったときには、顕著には見られなかったことだ。

尹はまた、東アジア地域におけるアメリカの主要同盟国、つまり日本との安全保障関係を強化したいとも述べている。対日関係の強化は緊張関係にあるときには難しかったが、中国との関係が緊迫していくなかでは、長期的に見れば韓国の安全を根本的に高めることにつながり得る。

文政権下では、韓国の中国依存を減らす長期的な試みが行われてきた。この脱中国路線は今後も続くだろうし、強化されるかもしれない。それでも、現実問題として韓国がすぐに経済方針を見直すことは不可能だ。

中国を激怒させることは、韓国経済に破滅的な結果をもたらす。2017年、韓国にTHAAD(高高度防衛ミサイル)を配備したことで中国が韓国に経済制裁を科し、韓国経済が大打撃を受けたことからも明らかだ。尹は韓国の安全保障強化のためTHAADシステムを強化することは考えられるが、その際には中国からの経済的締め付けを覚悟しなければならないだろう。

220405P38_KAN_02.jpg

THAAD配備の報復対象となった韓国のロッテマート(北京、2017年) AFLO

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中