「プーチン権力の座」失言が露呈、バイデンの対ロ長期戦略の欠如
このため発言の火消しが迅速に、かつ幅広い方面から行われた。バイデン政権内にたとえ大統領の評価に傷がつこうとも、ロシアとの対立激化をどうしても避けたいという強い願いがあることが分かる。
ブリンケン国務長官、ホワイトハウス報道官、北大西洋条約機構(NATO)大使、ドイツのショルツ首相らが一致して、バイデン氏が発言したその日のうちに、これは体制転換を意図したわけではないと説明し、ワシントンで記者団から体制転換を求めたのかと聞かれたバイデン氏本人も「ノー」と言い切った。
さらにバイデン氏は28日、ホワイトハウスで記者団に自身の発言は、米国の政策変更ではなくプーチン氏の行動についての「道義的な憤り」を反映したものだと述べた。もっともプーチン氏が「今の路線を続けていけば、世界からつまはじきとなり、国内の支持もどうなるか分からない」と改めてくぎを刺した。
想定されていない着地点
米国ではグラム上院議員(共和党)などから、ウクライナ危機の解決はプーチン氏の強制排除だとの主張も出ているが、バイデン政権はそうした考えには一定の距離を置いてきた。
ただ同政権は、ロシアの企業、銀行、政府当局者やオリガルヒ(新興財閥)に発動した制裁の直接の標的がプーチン氏で、同氏から支持者たちを引き離そうとしている。
バイデン氏は今月1日、上院で行った一般教書演説で、プーチン氏はかつてないほど世界から「孤立している」と強調。その1週間後には、プーチン氏をもっと「締め付ける」と表明した。
ところがバイデン氏がこれほどプーチン氏に対して直接的な措置を講じても、結局ウクライナ侵攻を止めることはできなかった。するとバイデン氏は、2月24日のウクライナ侵攻以降、ロシア国民に呼びかける方式に戦術を転換。ワルシャワでも「ロシア国民の皆さん、あなた方は敵ではない」と訴えた。
バイデン政権は、ウクライナ侵攻についてホワイトハウスがどんな「決着」シナリオを描いているのか、あるいはどうすればプーチン氏が対立を和らげる可能性があるのか、今のところ答えを出していない。
ロシア側は今回のバイデン氏の発言に関して、ペスコフ大統領報道官が「これは警戒すべきメッセージであるのは間違いない」と語るなど強く反発している。
戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員で紛争問題専門家のアンドルー・ローゼン氏は、ロシアが米国の行動の裏に悪意があるという偽情報の流布を企てる上で、バイデン氏発言が利用されると警鐘を鳴らした。
(Trevor Hunnicutt 記者、Jarrett Renshaw 記者)
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