「プーチン権力の座」失言が露呈、バイデンの対ロ長期戦略の欠如
「ロシアのプーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」――。26日のバイデン米大統領によるこの発言が大きな波紋を広げ、バイデン氏側近や西側諸国、そしてバイデン氏本人も釈明に追われる事態になっている。ホワイトハウスで28日撮影(2022年 ロイター/Kevin Lamarque)
「ロシアのプーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」――。26日のバイデン米大統領によるこの発言が大きな波紋を広げ、バイデン氏側近や西側諸国、そしてバイデン氏本人も釈明に追われる事態になっている。誰もが米ロの対立激化を望んではいないからだ。
バイデン氏が衝撃的な発言をしたのは、ポーランドの首都ワルシャワにおける演説でだ。これにより、何人もの専門家がバイデン氏としては就任以来最も素晴らしい内容とみなした演説の骨子は注目されなくなり、ロシアに対する同盟国の結束に成功するはずだった同氏のワルシャワ訪問も、逆に同盟国を不安に陥れる結果になった。何よりも、冷戦期の敵だったロシアに米国がこの先対応するための長期的な戦略がどうなっているのかを巡り、さまざまな疑問が浮かび上がっている。
ホワイトハウス高官の1人はロイターに、「権力の座」のくだりはバイデン氏の演説草稿にはなかったと明かした。ではバイデン氏の「本音」が出たのかと聞かれたこの高官は直接答えず、大統領はプーチン氏を「殺人者」「戦争犯罪人」と呼ぶことに全くためらいを感じていないと指摘した。
バイデン氏はこれまでの政治家人生において、記者らとの自由な懇談の場や予定にないイベントなどで、幾つか目立つ「アドリブ失言」をしてきた経緯がある。最近の欧州訪問時には、ロシアがウクライナで化学兵器を使用すれば米国も「同様の」対応をするし、米軍が最前線に向かうと示唆。いずれも現在の米国の政策とは異なっている。
一方今回の発言は、事前に準備された草稿を聴衆に向けて読み上げる状況で飛び出した。ただバイデン氏のある側近は、多くの西側諸国や米有権者の間にはウクライナに侵攻したロシアに対する鬱屈した感情があり、同氏はそれを代弁したのだと擁護する。実際、この発言の直前の演説会場は、約1000人の聴衆がバイデン氏の言葉に共鳴し、拍手をしたり、旗を振り回したり、歌い出す人まで出るほど熱気に包まれていた。
また複数の米政府高官は、バイデン氏が発言の前日、ウクライナ難民やウクライナ政府関係者と会談したとも明かし、同氏の感情を揺さぶったのではないかと推測する。
それでもバイデン氏の発言は、ロシアなどが長年米国を非難してきた内容、つまり米国は世界中の紛争において帝国主義的な役割を果たそうとしている、という構図を裏書きし、予測不能性が高まるばかりのプーチン氏を何とか制御しようとしている西側の努力に水を差す形になっている。