最新記事

ルポ

子供たちが狙い撃たれ、遺体は集団墓地に積みあがる...孤立都市マリウポリの惨状

Barbarity Laid Bare

2022年3月23日(水)17時20分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)

220329P30_MAP_04.jpg

マリウポリの病院への爆撃で負傷した人を運ぶウクライナ兵士とボランティア AP/AFLO

人道回廊を設置する試みはこれまで何度も失敗に終わり、周囲の道路は地雷や不発弾だらけだ。市当局によれば、これまでに2500人以上が死亡したというが、爆撃が続いているため正確な死者数は把握できていない。危険すぎて葬儀など不可能だ。

医師たちの話では、治療中の負傷者の割合はウクライナ軍兵士1人に対し民間人10人だと、現在、国際メディアで唯一マリウポリに記者が残るAP通信が報じている。

「作業員は大急ぎで遺体を投げ込んでいる。視界が開けた場所に長くとどまれば、死ぬ確率が高まるからだ」

AP通信の記者は、マリウポリの凍った地面に掘られた狭い溝のそばで見た光景をそう伝えている。「どんどん遺体が運ばれてくるだろう。あちこちに遺体が散らばる通りから、誰かが引き取りに来るのを待って大人や子供が遺体を見守っている病院の地下室から。一番幼い遺体にはまだへその緒が付いている」

イリーナの家族は何とかマリウポリを脱出できたとはいえ、これからのことは不安だらけだ。言うまでもなく、想像を絶する苦難をくぐり抜けてきた彼らは深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)のリスクも抱えている。

なすすべなくニュースを見つめる

さらに、退避できた人が1人いれば、その背後には市内に足止めされている人がおそらく何十万人といるだろう。市外にいるその人たちの身内は、ロシア軍がマリウポリにさらに残虐な無差別攻撃を加えるニュース映像を、なすすべもなく見つめるばかりだ。

3月9日にロシア軍がマリウポリの産科病院を爆撃したとき、ドイツ在住のアーティスト、ビクトリア・ポポワが顔色を失ったのは理不尽な破壊行為にショックを受けたからだけではない。彼女の両親は今もこの街で暮らす。ロシア軍の包囲が始まってからは、なかなか連絡が取れない日々が続いていた。

「両親の家は産科病院のすぐそば、通りの向かいにある」と、27歳のポポワは言う。「ニュース写真に目を疑った。ショックが収まると、せきを切ったように涙があふれた」

その前日母親とやっと電話がつながったが、2分ほどで切れてしまった。病院爆撃後はいくら電話をかけてもつながらず、身を切り刻まれるような不安にさいなまれている。

「両親の声を聞いて生存を確認できることがどんなにありがたいか、今やっと分かった」と彼女は声を詰まらせる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中