戦争したくて仕方ない軍部と、共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時
XI’S GAME
そんな習の運命は、今秋の党大会で決まる。2018年の憲法改正で国家主席の任期制限が撤廃され、「終身国家主席」も夢ではなくなったが、中国で真の権力を握り続けるためには、共産党総書記の座を維持できなければ意味がない。そして習がその座を維持するためには、冬季オリンピックの成功が不可欠だった。
そのために中国は、世界一厳しいゼロコロナ政策を実施してきた。だが、それでもデルタ株とオミクロン株の感染拡大は封じ込められなかったし、ゼロコロナ政策は中国社会に計り知れないダメージを与えるとともに、経済成長も減速させてきた。さらに、妥協のない防疫措置は、中国が全体主義の国であることを世界中に印象付けることにもなった。
「中国共産党の絶対的指導者である習は、オリンピックで壮大なスペクタクルを見せつければ、自分の体制の正当性を国内外にアピールして名声を獲得できると思ったのだろう」と、マクドナルド・ローリエ研究所(カナダ)のチャールズ・バートン上級研究員は言う。「ところが逆に、国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」
五輪で世界の人々が体感した中国の闇
冬季オリンピックは、世界中から集まった競技関係者やジャーナリストが中国のシステムを「体感」する機会にもなったと、バートンは指摘する。ウイグル人やチベット人などの人種的・宗教的マイノリティーに対する虐殺や長期収容、拷問、レイプ、奴隷化、臓器摘出といった残虐行為は話題にさえできない。
だが、こうしたおぞましい行為は、中国共産党の本質であり、今後大衆の目から隠し続けるのは難しくなるだろう。過去3回オリンピックに出場している中国のプロテニス選手の彭帥(ポン・シュアイ)が、昨年11月に前政治局常務委員・副首相をレイプで告発して以来、沈黙を強いられていることに世界の注目が集まったのは、オリンピック開催国だったからでもある。
習は批判の声には直接応えないし、自分に都合のいい現実をつくり出すのがうまい。だが、今後はそのやり方や体制に疑問を投げ掛けるのは、反体制派だけではない。批判の一部は、チャンスをずっとうかがってきた党内上層部から出てくる可能性もある。習は、党と軍の敵対派閥に対する粛清を強化してきたが、敵対派閥もオリンピックで習を粛清する理由を見つけたかもしれない。