最新記事

米社会

快楽は「悪」ではない...性教育は「性的欲求を認める」ことで、より効果的になる

Putting the Sexy in Safe Sex

2022年3月12日(土)10時50分
ハンナ・ドクター・ローブ
『セックス・エデュケーション』

『セックス・エデュケーション』の一場面 EVERETT COLLECTION/AFLO

<危険性ばかりを強調せず、性的欲求を持つことを肯定する教育的介入が、より安全な性行為と性に関する自律性を促す>

「セックスはするな。妊娠したら死んでしまう」

2004年公開の映画『ミーン・ガールズ』の有名なセリフは、アメリカの主流である禁欲主義の性教育を揶揄したものだ。高校の体育館に集まったティーンエージャーに、体育教師のコーチ・カーがセックスは我慢しろ、と説く。

「正常位はやめろ。立ってするのも駄目。とにかくセックスは駄目だ。いいか?」。カーはそう言うと、「ゴム」が入った箱を生徒に差し出す。

一方、19年からネットフリックスで配信されているドラマ『セックス・エデュケーション』では、学校で同級生を相手にセックスセラピーを始めた女子高校生のメイブ・ワイリーが、禁欲主義を重んじる学校関係者にこう言う。

「性的欲求を持つことを恥じる必要はありません。あなたはセックスを恐ろしいもののように言うけれど、そうとは限らない。セックスは楽しくて、美しくて、自分と自分の体について教えてくれます」

確かに近年の性教育では、セックスに肯定的な姿勢が称賛されるようになった。それでも、セックスは楽しいものだと性教育で教えるべきという考えが賛同を得るのは容易ではない。ロードアイランド州では今年2月、「快楽に基づく性的関係を肯定的に認める」性教育を提言する法案が提出されたが、他の議員や教師、親から批判を浴びた。

「セックスに関しては、危険性や起こり得る有害な影響ばかりが強調されてきた」と、プレジャー・プロジェクトの創設者アン・フィルポットは言う。04年創設のプレジャー・プロジェクトは、欲望や喜び、快楽を肯定する性教育を提言する団体で、「より安全なセックスにセクシーさを加える」ことを目指している。

より安全なセックスにセクシーさを加えるのは、楽しみのためだけではない。『セックス・エデュケーション』の高校生のようにセックスの肯定的な面を強調することによって、より多くの人が性感染症の予防策を取ろうと思うようになるのだ。

性行為は普通で楽しい経験である

データもそれを示している。プレジャー・プロジェクトのチームは、英オックスフォード大学やWHOの「性と生殖に関する健康と研究」部門の研究者らと共に、快楽に基づく性的健康の介入プログラムについてメタ分析を実施。学術誌プロス・ワンに発表した論文で、快楽を取り入れた性教育のプログラムは、より安全な性的行為を促すことができると述べている。

快楽に基づく性教育にはさまざまな形があるが、その核心は、性行為は普通のことであり、楽しい経験である(あるべきだ)と教えることだ。「快楽に関する対話だけでなく、コミュニケーション、交渉、拒否などのスキルを含む包括的な」介入になると、ラトガース大学都市グローバル公衆衛生学部長のレスリー・カンター教授は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中