快楽は「悪」ではない...性教育は「性的欲求を認める」ことで、より効果的になる
Putting the Sexy in Safe Sex
『セックス・エデュケーション』の一場面 EVERETT COLLECTION/AFLO
<危険性ばかりを強調せず、性的欲求を持つことを肯定する教育的介入が、より安全な性行為と性に関する自律性を促す>
「セックスはするな。妊娠したら死んでしまう」
2004年公開の映画『ミーン・ガールズ』の有名なセリフは、アメリカの主流である禁欲主義の性教育を揶揄したものだ。高校の体育館に集まったティーンエージャーに、体育教師のコーチ・カーがセックスは我慢しろ、と説く。
「正常位はやめろ。立ってするのも駄目。とにかくセックスは駄目だ。いいか?」。カーはそう言うと、「ゴム」が入った箱を生徒に差し出す。
一方、19年からネットフリックスで配信されているドラマ『セックス・エデュケーション』では、学校で同級生を相手にセックスセラピーを始めた女子高校生のメイブ・ワイリーが、禁欲主義を重んじる学校関係者にこう言う。
「性的欲求を持つことを恥じる必要はありません。あなたはセックスを恐ろしいもののように言うけれど、そうとは限らない。セックスは楽しくて、美しくて、自分と自分の体について教えてくれます」
確かに近年の性教育では、セックスに肯定的な姿勢が称賛されるようになった。それでも、セックスは楽しいものだと性教育で教えるべきという考えが賛同を得るのは容易ではない。ロードアイランド州では今年2月、「快楽に基づく性的関係を肯定的に認める」性教育を提言する法案が提出されたが、他の議員や教師、親から批判を浴びた。
「セックスに関しては、危険性や起こり得る有害な影響ばかりが強調されてきた」と、プレジャー・プロジェクトの創設者アン・フィルポットは言う。04年創設のプレジャー・プロジェクトは、欲望や喜び、快楽を肯定する性教育を提言する団体で、「より安全なセックスにセクシーさを加える」ことを目指している。
より安全なセックスにセクシーさを加えるのは、楽しみのためだけではない。『セックス・エデュケーション』の高校生のようにセックスの肯定的な面を強調することによって、より多くの人が性感染症の予防策を取ろうと思うようになるのだ。
性行為は普通で楽しい経験である
データもそれを示している。プレジャー・プロジェクトのチームは、英オックスフォード大学やWHOの「性と生殖に関する健康と研究」部門の研究者らと共に、快楽に基づく性的健康の介入プログラムについてメタ分析を実施。学術誌プロス・ワンに発表した論文で、快楽を取り入れた性教育のプログラムは、より安全な性的行為を促すことができると述べている。
快楽に基づく性教育にはさまざまな形があるが、その核心は、性行為は普通のことであり、楽しい経験である(あるべきだ)と教えることだ。「快楽に関する対話だけでなく、コミュニケーション、交渉、拒否などのスキルを含む包括的な」介入になると、ラトガース大学都市グローバル公衆衛生学部長のレスリー・カンター教授は言う。