第2次大戦後の世界秩序が変わる時
PUTIN’S GAMBIT
「Z」マークが描かれた戦車に乗る親ロシア派軍の戦闘員(ウクライナ東部の親ロシア派地域、3月1日) Alexander Ermochenko-REUTERS
<フセインのクウェート侵攻やユーゴスラビアで起こったジェノサイドとも、今回のウクライナ危機は異なる。戦後に構築された平和維持と経済発展のシステムが今、巨大な壁に直面している>
ロシアによるウクライナ全面侵攻は、世界の民主主義陣営に、77年前のナチスドイツ降伏以来で最大の試練をもたらしている。
むしろ序盤戦に関しては、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の揺さぶりは、ヒトラーのそれよりも大きいと言えるかもしれない。
なにしろ現在のロシアは核を保有しており、欧米諸国の対応次第では、それを使うことも辞さないとプーチンは言っているのだ。
「たったいまプーチンは、ウクライナを支援するなら、核兵器を使用すると警告してきた。これでポスト冷戦時代のシステムは事実上終焉した」と、米ブルッキングス研究所のコンスタンツェ・シュテルツェンミューラー上級研究員は語る。
「今回のウクライナへの攻撃は、民主主義陣営全体に対する攻撃であることを理解する必要がある」
第2次大戦後、アメリカと同盟国は、再び悲惨な世界大戦が起こることを防ぐために平和維持と経済発展のシステムを構築してきた。それは冷戦時代を含めて過去80年近くにわたり、かなりうまく機能してきた。
ところが今、そのシステムは巨大な壁に直面している。
その一因は、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアが拒否権を発動すれば、国際連合はたちまち国際連盟のように無力な存在になってしまうことにある。ヒトラーと、イタリアの独裁者ムソリーニは1930年代、国際連盟をコケにして世界の舞台で傍若無人を働いた。
今回のウクライナ侵攻について、主要国は例外なく、なんらかの立場を明らかにすることを強いられるだろう。これまでロシアの近隣諸国への侵攻に曖昧な態度を取ってきた中国やインドも例外ではない。
一方、ドイツなどのヨーロッパ諸国は、重要インフラ、とりわけエネルギー供給において、ロシアへの依存を真剣に見直すべきだ。
妄想を理由に侵攻を正当化
プーチンが今やっていることと比べれば、第2次大戦後に起きた国際問題は比較的マイナーなものだったとさえ感じられる。
1956年のハンガリー動乱や1968年の「プラハの春」をソ連が弾圧したときは、冷戦のピーク時だったせいもあり、アメリカは共産圏内の出来事に首を突っ込むことに及び腰だった。
一方、90年代になって、イラクの独裁者サダム・フセインがクウェートに侵攻したときや、ユーゴスラビアの独裁者スロボダン・ミロシェビッチがボスニアとコソボのイスラム教徒にジェノサイド(集団虐殺)を働いたときは、アメリカのリーダーシップで、すぐに首謀者を国際的に孤立させることができた。