最新記事

顔認証

ウクライナ国防省、顔認識AIを導入 ロシア工作員の発見に利用か

2022年3月22日(火)19時00分
青葉やまと

ウクライナ国防省は米AIベンチャーのクリアビューAI社による顔認識技術を導入する...... gorodenkoff-iStock

<検問でロシア関係者を検出可能。指紋より高速に判別できるが、AI固有の弱点も>

ウクライナ国防省は3月12日、米AIベンチャーのClearview AI(クリアビューAI)社による顔認識技術を導入すると発表した。Clearview AI社がウクライナ側に無償提供を打診し、ウクライナ側がこれに応じた。

具体的な用途は公表されていないが、Clearview AI社アドバイザーであり元外交官のリー・ウォロスキー氏は、ロシア側の工作員を検問所で検出することが可能になると説明している。ほか、死亡したウクライナ兵の身元確認や、難民として散り散りになった家族の再会を支援するなどの用途が想定される。

指紋の照合による判定作業と比較した場合、精度は劣るが高速に処理できる利点がある。死後に腐敗するなど容貌が著しく損なわれている場合には検出の信頼性が低下するものの、顔にある程度の負傷を負っている場合も実用上問題なく機能する。

同社は業界最大規模となる100億枚の顔画像データを保持しており、うちロシアから収集されたデータは20億枚にのぼる。同社によるとロシア側には技術を提供していない。

ウクライナ・デジタル変革省の広報官は以前、Clearview AI社を含む複数の米AI企業からオファーを受け、採用を検討すると述べていた。テック企業のあいだでウクライナ支援の動きが広がっており、スターリンク衛星通信の無償提供に踏み切ったスペースX社のイーロン・マスク氏などの前例がある。

99.85%の高精度

Clearview AIの認識技術は、非常に高い認識精度を誇る。米立標準技術研究所が昨年11月に実施したテストにおいて、アメリカの顔認証技術として1位を獲得した。1200万枚のサンプルから同じ人物の顔画像を照合するテストにおいて、99.85%の正確性を発揮している。

同社は100億枚の顔画像からなるデータベースを保持しており、検査対象の人物の顔写真をこのデータベースと照合して特定する。各個人の顔から「特徴量」と呼ばれる判定上重要なポイントを複数検出し、これらポイント同士の距離関係をその人物固有の特徴とみなすしくみだ。

アメリカの捜査機関は、同社の技術を犯罪捜査に導入している。Clearview AI社によるとこれまでに、誘拐された子供、行方不明の認知症患者、麻薬の売人、性犯罪者などを検知し、数千件の事件の解決に貢献してきたという。

技術の濫用を避けるため、技術を利用する担当者は、あるべき利用法について事前にトレーニングを受ける必要がある。また、顔画像を照合する際には、その都度検索理由の入力が求められる。

過去にはプライバシー問題も

10億枚という膨大なデータを誇るClearview AI社だが、データの収集をめぐりプライバシー上の議論も巻き起こしてきた。

同社がデータベース上に保持している顔写真の多くは、人々がソーシャルメディア上で公開している写真を無断で収集したものだ。同社は、ネット上の情報を収集するGoogleの検索エンジンのようなものだと説明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中