最新記事

顔認証

ウクライナ国防省、顔認識AIを導入 ロシア工作員の発見に利用か

2022年3月22日(火)19時00分
青葉やまと

しかし、ニューヨーク・タイムズ紙が『私たちが知っている形のプライバシーを終えんに導くかもしれない秘密主義の企業』として2020年に報じると、同社は批判的な報道と法廷闘争の渦に巻き込まれた。

同社のスマホアプリでは、捜査機関のみならず一般ユーザーでも顔写真の検索が可能であった。Appleは規約違反だとしてアプリの公開を停止している。米イリノイ州では、利用者の許諾を得ない写真収集に関する集団訴訟が勃発した。

カナダ、スウェーデン、フランス、イタリアなどのプライバシー保護当局は収集活動を違法と判断し、データ削除とソフトの提供中止などを命じた。同社は一般ユーザーへの提供を停止ししたものの、各国の捜査機関などを対象に引き続き技術を提供している。

ウクライナでの用途について米インサイダー誌は、ロシアにおける監視技術の利用法と対比し、比較的問題が少ない形ではないかと論じている。ロシアでは反戦を訴える人々を監視カメラで確認し連行するなど、「より非道な用途で利用されている」と同誌は指摘する。

ロシア側にAIの弱点をつかれる可能性

このほか技術的な論点として、外部からの攻撃に対して脆いとの指摘もある。これによりロシア側に反撃の隙を与えかねない。

画像認識AIは一般に、悪意のあるデータの混入に対して無防備だ。機械学習による画像認識の隙をつき、画像の細部を人間の目では気づかない程度に改変することで、判断の拠り所となる「特徴量」を大幅に狂わせることができる。

このような画像は「敵対的サンプル」と呼ばれる。例えば現実世界においても、道路標識にごく小さなステッカーを貼ることで自動運転車を誤作動させるなどの攻撃が脅威となってきている。

敵対的サンプルを生成すれば、ある顔写真を一見してまったく同じ見た目に保ちながら、AIに対してはあたかも別人のように誤認させることも可能だ。とくにClearview AIは一般に公開されているソーシャルメディアを情報源としていることから、ロシアの工作員を含めた誰もが、敵対的サンプルを容易にデータベース内に紛れ込ませることができる。

さらには、意図的な妨害工作がなくとも、誤検出はわずかな確率で起こり得る。ニューヨークで監視技術監督プロジェクトを推進するアルバート・フォックス・チャン氏はロイターに対し、「善意のはずだった技術が誤動作し、まさにその技術によって守られるはずの人々に危害が加わることになるでしょう」と警告を発している。

先端技術をめぐっては、すでに展開中のスターリンク衛星通信の使用に関しても、電波発信中の地点がロシアの標的とされる危険性が指摘されている。サイバー空間との同時展開が特徴的なウクライナ侵攻では、今後も新興技術をめぐり、前例のない攻防が繰り広げられる可能性がありそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中