ウクライナ侵攻直前、台湾で議論されていた3つの危機シナリオ
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蔡が懸念するのは物理的脅威ではなく心理戦(写真は2016年) OFFICE OF THE PRESIDENT, ROC (TAIWAN)
<中国が便乗するのか。当の台湾はどう考えているのか。最も現実的な脅威として備えているのは「認知戦」だ>
ウクライナの国境付近で緊張が高まっていたこの数週間、アジアの専門家は台湾情勢に及ぼし得る影響に考えを巡らせていた。
中には、ロシアの侵攻に対してアメリカが決意にも決定的な行動にも欠けることから、中国が武力を使って台湾を管理下に置こうとの意識を強める、とする声があった。
一方で、台湾情勢との類似性はないとする指摘もあった。アメリカはインド太平洋の安全保障に注力したいため、ウクライナ防衛への積極的な関与には及び腰だからだ。
当事者である台湾政府はどう考えているのか?
平和的民主主義国家としての自負と、アメリカとの緊密な関係を考えれば、台湾がウクライナ情勢をめぐりロシアを非難したことは驚きではない。
台湾外交部はロシアが侵攻した2月24日に「#ウクライナと共にいる」とのハッシュタグを付け、ツイッターでロシアを非難。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統も23日に他国の主権を奪おうとする行為に警告を発しており、25日にはアメリカの同盟国と足並みをそろえて対ロ制裁を科すと表明した。
ただ、台湾の国家安全保障会議(NSC)がウクライナ侵攻の前日に議論していたのは、自国に直接起こり得る3つの危機シナリオだ。
1つ目は、台湾海峡における軍事的行為を通じた物理的危機。
2つ目は、誤情報の拡散や「認知戦」による心理的危機。
3つ目はサプライチェーンや株式市場、1次産品価格の崩壊による経済危機だ。
最悪のシナリオはもちろん、ロシアによるウクライナ侵攻の混乱に乗じて中国が武力行使に出ることだ。
今のところ中国東岸で大規模な軍事行動が始まる兆候は見られない。だが蔡政権は声明で、国民(と国際社会に)に向けて台湾海峡の情勢をつぶさに監視していると、抜かりない姿勢を示してみせた。
「台湾海峡とインド太平洋の安全は台湾当局と軍にとって最重要事項だ」。ただ、そうは述べつつも軍事的行為に対する緊急の懸念は示さなかった。
実際、台湾で起こり得るより現実的な脅威は、中国がウクライナ情勢を利用してフェイクニュースをまき散らし、台湾の未来についての悲観論を扇動することだ。
中国はこれまでも台湾を標的にしたフェイクニュース・キャンペーンを展開してきた。選挙前の世論操作だけでなく、普段から政治的分断や政権への不満を生み出す工作を行ってきた。